2023.08.22

気候変動の課題にグローバルとローカルで挑む

世界の平均気温は上昇が続き、気候変動への対応は喫緊の課題です。アステラスでは、事業を通じて排出される温室効果ガス(GHG)を2050年までに実質ゼロ(ネットゼロ)にするという目標を設定し、グローバルな視点と地域ごとの取り組みを融合することで、サステナブルな未来の実現に向かって前進しています。

サステナビリティ部門のChristina Chaléと、アイルランドの製造拠点・ケリー工場の設備エネルギーエンジニアであるMegan Stauntonが、グローバル観点での気候変動へのアプローチと、地域社会との積極的な関わりから生まれたサステナビリティ向上の取り組みについて語ります。
 

Christina Chalé


「地球環境は今、大きな危機に瀕しています。社会とアステラス双方のサステナビリティ向上を目指すためには、この大きな課題に事業を通じて取り組むべきと考え、『気候変動とエネルギー』を、重要課題の1つとして特定しています。具体的には、2050年までにネットゼロを達成するという長期目標を掲げ、再生可能エネルギーの活用やGHGの排出削減など、多様な取り組みを進めています。2023年1月には、SBT(Science Based Targets)イニシアチブの承認を取得し、私たちのGHG排出削減目標が、パリ協定における目標を達成するための科学的根拠に基づいた目標であることが認められました。

ネットゼロを達成するための地域の取り組み例として、約100カ国に向けた医薬品の製造を担うアイルランドのケリー工場が挙げられます。風力発電やバイオマスボイラーの導入に加え、地域社会と一体となって気候変動という課題に取り組んでいます。アステラスでは、グローバルの製造拠点で再生可能エネルギーの導入を進めており、その最前線にあるケリー工場は業界全体でもプレゼンスを発揮しています。世界中の患者さんに医薬品を持続的に供給し続けるために、医薬品製造時のエネルギー効率化を推進しています。」
 

Megan Staunton


「ケリー工場がサステナビリティ向上の取り組みに注力してきた背景には、地域社会との良好な信頼関係が大きく影響しています。アステラスは、アイルランドのケリー県で大きな雇用を生み出す企業の1つであることから、1992年の設立以来、地域と共に成長、発展してきました。

企業姿勢や各国の法令などで環境マネジメントの重要性が強調され始めた2000年代初頭、サステナビリティ向上のためのより具体的な取り組みが求められるようになりました。ケリー工場は、2003年に環境マネジメントの国際規格(ISO 14001)の認証を取得するなど、サステナビリティ向上の取り組みを企業活動の一環として組み込む体制をいち早く整えました。また、2011年に風力発電とバイオマスボイラーを導入しました。」

 

地域での取り組みがグローバルの課題解決の鍵に

「地球規模の気候変動に対処するためには、まず地域レベルの課題から解決していくことが重要です。ケリー工場の工場周辺エリアには天然ガスのパイプラインが通っていないため、以前は軽油を使用していました。しかし、軽油は大量のCO2を排出し、また、価格高騰の影響を受けやすいなど、環境および経済面での課題があったため、代替エネルギー源を模索するようになりました。その際に着目したのが、地域にある資源の活用でした。

すなわち、工場から半径50km圏内で林業を営む業者が排出するウッドチップを用いて発電するバイオマスボイラーに着目し、これによりCO2排出量の削減、燃料コストの削減を達成しました。工場施設の面積が過去10年間で約60%拡大されているので、仮に軽油依存のままであった場合、2022年の操業では約120~130万リットル(オリンピックサイズの水泳プールの約半分)の軽油が必要でしたが、バイオマスボイラーとの併用で、わずか7万リットルに抑えることができました。(約94~95%の削減)」*1

*ケリー工場では、重要な設備での操業継続を確保するためのバックアップとして軽油を使用しています。

 

ケリー工場のサステナビリティ向上に関する取り組みの成果

 

社員がサステナビリティ向上を後押し

経営陣のサポートに加え、社員がサステナビリティ向上のために積極的に関与してきたことが、ケリー工場の成果につながっています。

ケリー工場では、社員自らが環境に配慮したプロジェクトを提案し、実行しています。工場敷地内の約20カ所に設置されている電気自動車の充電スタンドは、CO2排出量削減を目指した社員の要望を受けて導入されました。また、食品、プラスチック、紙類などの分類、および一部を堆肥化する取り組みを慣習とすることで、埋め立て処分ゼロを達成しました。さらに堆肥化装置をバイオマスボイラーに併設して発電に利用することで、循環する仕組みを実現しました。これらの成果は、どれも社員が一丸となって取り組んだ結果であり、サステナビリティ向上の精神が社員に深く浸透し、活動として表れています。

ケリー工場は、グローバルでもプレゼンスを発揮しています。一般的に、多くの工場では使い捨てのプラスチック製品や化学物質が大量に使われるため、資源の大量消費が問題視されています。この問題に対して、United Nations Framework Convention on Climate Change(国連気候変動枠組条約事務局)は「Race To Zero」キャンペーンを展開し、2030年までに95%の製薬およびバイオ医薬品業界の工場が何らかの環境対策をとることを目指しています。ケリー工場はこの呼びかけに応え、2022年に工場設備をリニューアルしました。既にリサイクルや省エネに優れた設備でしたが、サステナビリティの取り組みをさらに強化するため、すべての設備のエネルギー効率を高めました。さらに、社員同士のコラボレーションを促し、より環境意識の高い行動につなげるためのプログラムも進行しています。

ケリー工場のARK棟

LEED*2認証のゴールドレベルを達成したケリー工場のARK棟。

ARK棟の屋上に設置されたソーラーパネル

ARK棟の屋上に設置されたソーラーパネルは、同棟で使用される電力の10%を供給しています。


*2 非営利団体USGBC(U.S. Green Building Council)が開発・運用し、GBCI(Green Business Certification Inc.)が第三者機関として認証の審査を行っている、環境に配慮した建物を評価する認証制度


患者さんと地域社会のために

社内に留まらず、社外での活動の重要性についてもMeganは話します。
「ケリーの学校とも環境保全対策について活発に連携しています。例えば、学校がより環境に配慮した施設となるように、省エネ、廃棄物管理、節水などの実践について社員がアドバイスしています。また、学校や海岸の清掃活動も私たちが主体となって開催しています。このように地域の学校での環境教育を支援することで、若者たちの関心が環境保護やサステナビリティに向かい、将来的に地球環境の保全・改善につながると信じています。

アステラスの社員、そして地域コミュニティの一員として、私は日々の業務の中で、常に患者さんと地域社会を意識しています。患者さんの命を救う医薬品の製造に携わっているという重要性を意識する度に、とても誇らしい気持ちになります。医薬品の製造において品質は最も重要な要素ですが、私たちの事業活動が環境と調和し、サステナブルなものであることも同じレベルで重要です。サステナブルでなければ、患者さんと地域社会にとってのウェルビーングを実現することはできません。私たちのあらゆる意思決定や行動は、これまでも、そしてこれからも、患者さんと地域社会によって導かれていくでしょう。」
 



エネルギーや環境関連での受賞実績などケリー工場のサステナビリティ向上の取り組みに関する詳細、およびアステラスのサステナビリティ関連の成果もぜひご覧ください。

 

 

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