トランスレーショナルリサーチ

トランスレーショナルリサーチは、主に非臨床から臨床への橋渡しをする研究です。細胞や動物を用いて行う非臨床試験のデータから、患者さんのアウトカムを精度高く予測したり、逆に、臨床現場で得られた多様な情報を非臨床研究に活かしたりする工夫も進んでいます。患者さんに関する知見を早期に活用することで、創薬プロセスを効率的に進めて加速するとともに、成功確率の向上を図っています。

アステラスの特徴の一つとして、多様なモダリティを対象に、高い再現性で薬物動態(PK)/薬力学(PD)解析を行い、ヒト体内での挙動を予測していることが挙げられます。また、他社に先駆け、開発候補品のコンセプトの検証に際して生体模倣技術やヒト臨床サンプルを活用しています。さらに、それらの情報を組み込んだ数理モデルを用いて複雑な生体システムのシミュレーションを行い、開発候補品の特性を生かした開発戦略の策定に活用しています。

アステラスでは、このような先進的なケイパビリティに加え、社内外の研究者間のコラボレーションの環境も整っています。これらを生かし、複数の技術をかけあわせることで、トランスレーショナルリサーチの先進的な取り組みを進めています。

 

高い専門性を持つチームで取り組むPK/PD解析

開発候補品がヒト体内で示す挙動と、それに基づく薬効の発現を予測することがPK/PD解析の目的です。低分子や抗体に加え新たなモダリティへ挑戦することに伴い、PK/PD解析で測定対象となる開発候補品や、その薬効を評価するためのバイオマーカーは多様化しています。それぞれに合わせた手法やプロトコルを検討し、再現性の高い結果が得られる測定・解析法を開発することが必要です。

アステラスには、PKやバイオマーカーの分野において高い専門性を持つメンバーがいます。分野を横断して互いに知識やスキルを共有しながらひとつのチームとして研究活動をすることで、新たに取り組むモダリティでも信頼性の高い結果が得られるPK/PD解析が可能になります。

このように先進的なPK/PD解析により、複雑な生体システムの理解も進みます。その知見を、最適な用法・用量や併用方法といった治療戦略や、臨床試験の計画の立案に活用しています。

高い専門性を持つチームで取り組むPK/PD解析

 

世界に先駆けて活用を進める生体模倣技術

従来、主に動物を用いて行われていた非臨床試験において、近年、ヒト組織の形態や機能の一部を生体外で再現する生体外模倣技術の活用が注目されています。これにより開発されたモデルは、開発候補品のヒトでの有効性や安全性の予測精度を向上させることが期待されています。アメリカで最近施行された米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)近代化法案2.0により、動物実験に替わるモデルを活用して医薬品の承認申請を行える可能性が拓かれ、今後のさらなる活用が見込まれています。

アステラスでは、世の中の変化に先んじて、国内外のアカデミアやバイオテックとともに生体模倣技術の開発と活用を進めています。評価で用いる細胞をiPS細胞から作製しているほか、生体を構成する様々な細胞を用いて細胞間相互作用を含む複雑な生体システムを再現したモデルを開発しています。実際、腎障害の研究に活用できるよう、尿細管上皮細胞の機能を一部模倣したモデルの開発*にも成功しました。また、ヒトでの肝毒性ポテンシャルを評価するためのアステラス独自のプロトコルも構築し、研究開発への活用を始めています。従来、このような複雑なモデルを研究者のみで構築するには困難も多く、時間もかかっていましたが、近年ではロボットも活用してこれらを高質かつ安定的に作成し、開発候補品の評価を行っています。

* Marianne K Vormann et al. Modelling and Prevention of Acute Kidney Injury through Ischemia and Reperfusion in a Combined Human Renal Proximal Tubule/Blood Vessel-on-a-Chip, Kidney360 2021 Nov 4;3(2):217-231

世界に先駆けて活用を進める生体模倣技術

 

複雑な生体システムを理解し予測する数理モデル解析

医薬品の研究開発段階では、疾患に関連する生体システムのほか、開発候補品の生体内挙動や作用機序を理解し、ヒトでの薬効を予測することが欠かせません。しかし、生体システムは複雑で、新しいモダリティの場合はその予測がさらに困難なこともあります。

そこで用いられるのが、着目する生体システムと薬物との相互作用を数理モデル化する定量的システム薬理学(QSP)です。QSPモデルは、非臨床試験や文献で得られている公知情報などを統合して構築されます。これを用いてコンピューターシミュレーションを行います。

アステラスでは創薬の初期段階から、得られたデータをQSPモデルに逐次統合しています。早期から仮説を立てて検証するサイクルを回すことにより、構築する予測システムの確度を向上させています。先進的なバイオマーカー測定技術や生体模倣システムで得られた情報をタイムリーにモデルに組み込むことができるのもアステラスの強みです。

これにより、これまで困難だった薬効の予測ができるようになります。

複雑な生体システムを理解し予測する数理モデル解析