ドラッグディスカバリープラットフォーム

アステラスは、創薬標的を選定して開発候補品を見出す過程において、最新の設備を備えた研究環境を用意するとともに、独自の研究基盤技術を開発しています。これらを活用して様々な専門性をもつ研究者が協働し、新薬創出の加速や成功確率の向上を図っています。

当社最大の研究所であるつくば研究センターでは、開発候補品の探索に関わる最先端の研究環境を整えています。例えば、放射光施設を使って大規模な構造解析を行ったり、世界最先端のGPUスーパーコンピューターであるTOKYO-1システムを使って膨大なデータを計算することが可能となっています。

独自の研究基盤技術と最新のAIをかけ合わせ、医薬品の創製や評価に用いるプラットフォームの構築も進んでいます。ロボットと実験機器の操作システム、さらにはAIを組み合わせることで遠隔での全自動細胞培養や評価を可能にした「Mahol-A-Ba」がその一つです。また、開発候補品を見出す過程においてAIやロボットを組み入れつつ、要所で研究者の判断を加える仕組みである“Human-in-the-Loop”型の医薬品創製プラットフォームを構築し、研究開発期間の大幅な短縮にも成功しています。

 

化合物の最適な設計を支える研究環境

アステラスでは、つくば研究センターに加え、つくば市にある高エネルギー加速器研究機構の放射光施設内に専用の実験室を構えています。この施設を活用し、年間に500個を超える化合物と標的タンパク質との複合体の構造を解析しています。また、一度に大量のデータ処理が可能な環境を整え、膨大な構造データの評価を行っています。さらに、世界最先端のGPUスーパーコンピューターであるTOKYO-1システムを駆使することで、化合物の活性予測シミュレーションや最適化デザインを実施しています。

これらの充実した最先端の実験設備を活用しながら、アステラスでは様々な分野の専門家が協働しています。例えば、タンパク質精製やメディシナルケミストリーなどのモノづくりや、構造解析、アッセイ系構築、インフォマティクスなど解析・分析の専門知識を有する研究者が日々議論を重ねています。このような研究環境のもと、標的タンパク質分解誘導剤や二重特異性抗体など、従来の低分子や抗体よりも複雑な構造をもつ革新的な新薬の創製にも取り組んでいます。

tsukuba_research_center
高エネルギー加速器研究機構
tokyo-1

 

全自動細胞創薬システムMahol-A-Ba

もともと産業用ロボットとして工場での生産ラインに使われていた双腕ロボットは、最先端技術を用いた改良によりヒト型実験ロボットとして注目されています。アステラスは、全世界の民間企業で初めて、細胞を用いた創薬研究に双腕ロボットシステムMaholoを取り入れました。また、最新の技術を駆使した複合実験機器同時制御システムであるScreening Stationを立ち上げました。さらに、この二つをAI画像解析システムと組み合わせ、全自動細胞創薬システムMahol-A-Baとして開発しています。Mahol-A-Baは、熟練研究員と同じように複数の複雑な実験を実行し随時観察することができるのが特徴です。

これにより、以前は研究者が行っていた細胞培養・分化の作業に加え、分化した細胞の活性や薬理作用の評価を全自動で行い、遠隔操作もできるようになりました。夜間・休日問わず、在宅でも、さらには世界のほかの場所からも研究を進められるようになっています。また、Mahol-A-Baは汎用性が高く、研究者のニーズに合わせて実験操作を増やしたり、AI画像解析システムのディープラーニングを使って新たな評価項目を追加したりすることが可能です。

現在、Mahol-A-Baのロボット部分や制御・AIの各システムをグローバルで社内の複数の施設に導入しています。細胞医療の研究から製造までを通じて自動化し技術移転を容易に行えるようにすることで、創薬研究および製品製造の高質化、加速に取り組んでいます。さらに、社外共同研究施設にもMahol-A-Baを設置しオープンイノベーションを推進、創薬機会の創出につなげています。

maholo
screening_station


【参考】アステラスのDX戦略シリーズVol.2: 人×AI×ロボットの協働で創薬を加速
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メディシナルケミストとAIが共生するAI駆動型創薬プラットフォーム

早期の創薬研究では、膨大な化合物ライブラリーから、治療の標的とするタンパク質に結合したり、目的とする薬理作用を発揮するヒット化合物を見出します。このヒット化合物の構造をもとに、構造設計(Design)、合成(Make)、薬理作用などの評価(Test)、結果の解析(Analyze)のDMTAサイクルを何度も回して化合物の構造を最適化し、開発候補品を取得しています。

アステラスでは、このDMTAサイクルの各工程にAIとロボットを組み入れつつ、要所で研究者がアイデアや総合的判断などの価値を加える仕組みを独自に構築しました。これは、人×AI×ロボットを統合した“Human-in-the-Loop”型の医薬品創製プラットフォームです。これによりDMTAサイクルを効率化し、加速することで、ヒット化合物の特定から開発候補品の取得に至る期間を、当社の従来平均と比較して最大で約70%短縮しました。

本プラットフォームでは、化合物のデザインから、特性予測や、合成、評価、解析までを包括的にカバーしています。具体的には、AIを用いた化合物構造の生成やデザイン、化学反応条件の推薦などの機能に加え、生成された化合物の薬理活性や薬物動態等の様々な特性の予測を行っています。また、ロボットによる自動合成・自動アッセイが実装されており、実際の評価データを取得した後は、構造活性相関テーブルの作成や予測精度の確認を自動で行うツールが備わっています。いずれの機能も実運用の段階にあり、これまで主に低分子創薬で活用してきました。現在は中分子や高分子等のより複雑なモダリティへの応用拡大に向けて検討を行っています。

AI駆動型創薬プラットフォーム