京都大学(生命科学系キャリアパス形成ユニット)の川村晃久特定助教 と アステラス製薬研究本部分子医学研究所の鈴木丈太郎 主任研究員らは、米国ソーク研究所(Salk Institute for Biological Studies)のGene Expression Laboratory(Juan Carlos Izpisúa Belmonte(教授)およびGeoffrey M. Wahl(教授))のグループと共に、p53と呼ばれる癌抑制遺伝子がiPS細胞の形成を阻害していることを見出し、8月10日(日本時間)のNatureオンライン版に掲載される。
 p53は,腫瘍の発生を抑える働きのある重要な癌抑制遺伝子で「ゲノムの守護神(guardian of the genome)」との異名をもち、本遺伝子の異常は,癌細胞において高率に発見されている。2006年に山中伸弥教授(京都大学)らは,3~4つの遺伝子によって体細胞からiPS細胞という人工的な多能性幹細胞(万能細胞)を作り出すことに成功した。このiPS細胞の作成の過程は「再プログラミング(初期化)」と呼ばれるが、実際に体細胞が初期化されiPS細胞になる確率は非常に低い。今回の研究成果により、この「再プログラミング」をp53が抑制していたことが明らかになった(図1)。p53の機能を低下させたヒトやマウスの細胞を用いると、高率でiPS細胞を作製することができた(図2)。さらにp53の機能が低下した細胞は,当初山中教授らがiPS細胞の作製に必要と発表した4因子のうち2つを加えるだけでiPS細胞になることができた(図2)。初期化を促すことにより、体細胞のなかでは、癌抑制遺伝子p53が活性化され、iPS細胞形成が強力に抑えられていると考えられた(図1)。iPS細胞の作成と発癌との間に何らかの関わりがあることが推測される。このように、本研究は、未解明な「再プログラミング」の仕組みの一端を明らかにし、将来のiPS細胞の臨床応用に向けたより安全かつ簡便で効率的なiPS細胞作成法の確立に役立つものと考えられる。

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