私たちの研究活動
エンジニアードスモールモレキュールズ(ESM)チームは、標的タンパク質分解(TPD)およびその他の近接誘導技術に取り組み、低分子創薬におけるケイパビリティを向上する役割を担っています。
私たちの目標は、長い間「アンドラッカブル」(創薬の対象とすることが不可能)と考えられてきた「異常タンパク質に依存したがん」などの難治性疾患に対する新薬を創出することです。この挑戦的な目標を達成するために、ベンチャーマインドにあふれるパートナーとの協働も強化しながら、研究活動に取り組んでいます。
ESMチームは、2024年4月にアステラス社内の製品創出ユニットであるプロテインデグレーダーと、アステラス子会社のマイトブリッジ(現Astellas Engineered Small Molecules US, Inc.)およびNanna Therapeutics(現Astellas Engineered Small Molecules U.K. Ltd.)を統合して発足した組織です。
*Primary Focus「標的タンパク質分解誘導」についてはこちらのページをご覧ください。
アプローチ
私たちは従来の技術では創薬標的にすることが難しかった「異常タンパク質に依存したがん」などの難治性疾患を標的とし、 TPDをはじめとする新しい低分子技術を応用した創薬アプローチに注力しています。この技術を活用して、これまで有効な治療法がなかった患者さんに治療薬を届けるために、単剤および併用により高い治療効果を発揮する新薬の開発に取り組んでいます。
TPDは本来生体内に備わるタンパク質分解機構を利用して、標的タンパク質の機能を阻害する新しい創薬アプローチです。代表的なものとして、ユビキチン・プロテアソーム(UPS)系を利用した、標的タンパク質分解誘導キメラ分子 PROteolysis TArgeting Chimeras(PROTACs)が知られています。この技術ではケミカル化合物によって、薬物の標的となるタンパク質を人為的にE3ユビキチンリガーゼ等に近接させ、ポリユビキチン化を促します。これにより標的タンパク質がプロテアソームを介した分解へと誘導されます。
従来の分子標的薬は主に特異的なリガンドを持つタンパク質を標的とし、このリガンドに類似した構造の低分子化合物でその機能の活性化や阻害を行うものでした。しかしながら、標的としたいタンパク質の中にはこのような明確なリガンド結合部位を持っていないものもあります。その場合従来の方法では創薬の標的とすることは難しく、「アンドラッガブル」な創薬標的とされてきました。TPDはE3リガーゼ等と標的タンパク質を近接させる際に、必ずしも深いリガンド結合ポケットを必要としないため、これまで創薬の標的とすることが難しかったタンパク質を標的とすることが可能です。また、分子標的薬は一般的にタンパク質の酵素活性を阻害するのに対し、TPDは標的タンパク質自体を分解することで、たんぱく質の持つ酵素活性に加え、たんぱく質がもつ足場機能などの、非酵素活性も同時に阻害できるため、分子標的薬と比べて優れた薬効を示すことが期待されます。
ASP3082
私たちはTPDの アプローチを応用し、選択的KRAS G12D分解剤であるASP3082を見出し、世界で初めて臨床試験に供しました。現在ASP3082は米国にて第Ⅰ相臨床試験が行われています。KRAS G12D変異を有する膵臓がんや大腸がん、肺がん等の患者さんに対する新しい治療手段を提供することを目指し、有効性および安全性の確認を進めています。
ASP3082の紹介動画(英語)
チーム
ESM長
博士(薬学)
早川 昌彦
入社後、メディシナルケミストとしてがん・泌尿器等の低分子創薬を担い、複数の上市品、臨床開発品の創出に貢献。2018年モダリティ戦略室長、2019年プロテインデグレーダー部門長を歴任し、2024年4月より現職。
「私たちの目標は、これまでの低分子では狙うことが難しかった創薬標的に対する新しいアプローチであるTPDなどの革新的な低分子技術を活用することで、患者さんに新しい治療の選択肢を提供することです。がん、あるいは他の疾患で苦しまれている患者さん、およびそのご家族の人生を良い方向に変えられるよう、研究を進めて参ります。」
ESM-US/UK* 長
David Barrett, Ph.D.
*: ESMの子会社
アステラスに日本および英国で勤務。感染症、がん、プロジェクトマネジメントの幅広い専門知識を有し、競争優位性のある質の高い開発候補品をパイプラインや市場に送り出してきた実績を持つ。2022年からマイトブリッジ部門を率いる。
「私たちは、患者さんに新たな治療選択肢を提供することに全力を注いでいます。次世代の低分子医薬品を患者さんにお届けするため、近接誘導コンセプトの可能性を追求し、治療困難な疾患に対する医薬品を創出することを目指しています。」
講演・学会発表*
- Presentation Title:標的タンパク質分解誘導を基盤にした薬剤開発
The 29th Annual Meeting of the Japanese Society for Proteases in Pathophysiology
September 6-7, 2024
The University of Tokyo, Tokyo, Japan
- Presentation Title:がん遺伝子変異KRAS(G12D)に対する新規標的タンパク分解誘導剤ASP3082の創製
The 39th Interactive Seminar for Novel Medicinal Sciences
July 10-12, 2024
Mercure Nagano Matsushiro Resort & Spa, Nagano, Japan
- Presentation Title:Discovery of KRAS-targeting Protein Degraders
The 16th Sympodium of Genome Drug Discovery and Emergence Forum “Intracellular Degradation and Drug Discovery”
July 4, 2024
The University of Tokyo, Tokyo, Japan
- Presentation Title:標的タンパク質分解誘導を基盤にした薬剤開発
Dialogue 19th Anniversary Seminar 2024
July 2-3, 2024
City Hall & Gallery Gotanda, Tokyo, Japan
- Presentation Title:Discovery of novel KRAS degraders
FASEB Science Research Conferences: Ubiquitin and Ub-like Proteins
June 9-13, 2024
The Niagara Falls Convention Center, Niagara Falls, NY, USA
- Presentation Title:KRAS G12D degrader: ASP3082
Japanese Foundation for Cancer Research-International Symposium on Cancer Chemotherapy
December 13-14, 2023
Miraikan - The National Museum of Emerging Science and Innovation, Tokyo, Japan
- Presentation Title:Discovery of Novel Kras Degraders
6th Targeted Protein Degradation Summit
October 30-November 2, 2023
The Westin Copley Place, Boston, MA, USA
- Presentation Title:Discovery of the first clinical KRAS (G12D) degrader ASP3082
2nd Targeted Protein Degradation Conference in Japan
July 26-27, 2023
Shonan iPark, Fujisawa, Japan
- Presentation Title:標的タンパク質分解誘導で広げる創薬の可能性
Interphex Week Tokyo 2023
July 5-7, 2023
Tokyo Big Sight, Tokyo, Japan
- Presentation Title: Novel KRAS G12D degrader ASP3082 demonstrates in vivo dose-dependent KRAS degradation, KRAS pathway inhibition and anti-tumor efficacy in multiple KRAS G12D mutated cancer models
Abstract 5735: Novel KRAS G12D degrader ASP3082 demonstrates in vivo, dose-dependent KRAS degradation, KRAS pathway inhibition, and antitumor efficacy in multiple KRAS G12D-mutated cancer models | Cancer Research | American Association for Cancer Research (aacrjournals.org)
AACR ANNUAL MEETING 2023
April 14-19, 2023
Orange County Convention Center, Orlando, FL, USA
- Presentation Title:標的タンパク質分解誘導で広げる創薬の可能性
Interphex Week Osaka 2023
March 8-10, 2023
INTEX Osaka, Osaka, Japan
- Presentation Title: ASP3082, a First-in-class novel KRAS G12D degrader, exhibits remarkable anti-tumor activity in KRAS G12D mutated cancer models
EORTC-NCI-AACR MOLECULAR TARGETS AND CANCER THERAPEUTICS SYMPOSIUM
October 26-28, 2022
Barcelona International Convention Centre (CCIB)
Barcelona, Spain
*規制当局による承認前の化合物に関する情報が含まれています。
メディア掲載
- Targeted protein degradation: turning undruggable targets into druggable targets, Drug Target Review, 2023年7月6日掲載
- Novel cancer-drug strategy could hit notorious proteins, Nature(記事広告), 2023年3月9日掲載
- Beyond Biotech podcast 33: Astellas Pharma, Innovation Agency Lithuania, 4basebio, Labiotech, 2023年2月10日掲載
- The KRAS crowd targets its next cancer mutations, Nature Reviews Drug Discovery, 2023年1月23日掲載
- Biotech in Asia: looking forward to 2023, Labiotech, 2023年1月11日掲載
パートナーシップ
私たちはアステラスが有するTPDなどの近接誘導(induced proximity)技術を拡大し、ポートフォリオをさらに強化する為、以下の領域においてバイオテックやアカデミアとのパートナリング活動を行っています。
- 新しいタンパク質分解または近接誘導の技術
- TPDのアプローチが有効な創薬標的(がん、およびがん以外)の探索
- 「アンドラッガブル」なタンパク質に結合する化合物を獲得する技術
採用情報
ESMでは、組織の拡大に伴い、豊富な創薬経験を持つ研究者や、革新的な創薬アイデアを実現したい研究者の採用を積極的に進めています。
ESMはTPD領域に広く取り組んでおり、特に標的タンパク質分解誘導薬および標的タンパク質分解誘導薬-抗体複合体のプログラムに注力しています。これまでに培った有機合成化学、生物学、薬理学、抗体工学、毒性学、薬物動態学などの知識、技術および経験を活かして、一緒に開発候補品の創出に挑戦していきましょう。
多様なポジションでの採用を行っていますので、私たちと共に創薬に取り組むことに興味がありましたら、ぜひ下記までお問い合わせください。
Contact
Astellas Engineered Small Molecules US, Inc.
441 Morgan Ave, Cambridge, Massachusetts 02141, USA
Email: [email protected]
Astellas Engineered Small Molecules U.K. Ltd.
Merrifield Centre, Rosemary Lane, Cambridge, CB1 3LQ, United Kingdom
Tel: +44(0) 1223 247000
Email: [email protected]
Registered in England & Wales number: 08328823
Registered office as above