2024.02.28

マレーシアでのがん疾患啓発活動:理髪店・美容院を起点に、多様性に寄り添う取り組みを推進

マレーシアでのがん疾患啓発活動:理髪店・美容院を起点に、多様性に寄り添う取り組みを推進

マレーシアでは、がん患者さんの 60% 以上が、がんが進行した状態(ステージ3または4)で診断されています。早期発見に向けたがん検診の受診率の向上や、疾患そのものへの理解を深めるための積極的な対策が急務です。しかし、同国ではがん疾患に対する意識が低い傾向にあること、医療へのアクセス体制が不十分であること、さらに文化的背景などの理由から、がん検診の受診率は低く、その改善には新たなアプローチが必要でした。

こうした課題に対処するため、マレーシア国立がん協会(National Cancer Society Malaysia、以下NCSM) とアジアがんフォーラム (Asia Cancer Forum、以下ACF) は、「BEAUTY (Bringing Education And Understanding To You) & Health」というユニークながん疾患啓発プログラムを立ち上げました。アステラスは、 地域の医療課題に正面から取り組むことで、保健医療システム強化やヘルスリテラシーの向上を目指す BEAUTY & Healthプログラムを支援できることを嬉しく思います。

本プログラムを主導する2団体の各代表が、国境を越えたパートナーシップにより、マレーシア独自の文化に寄り添いながら、同国のがん疾患への理解に変化をもたらす可能性について、想いを語ります。

 

理髪店や美容院というコミュニティに着目

マレーシアでは、予防医療に関する情報や知識を得ることが難しく、健康診断やがん検診の受診は一般的ではありません。こうした状況において、民族に関係なく、誰もが疾病の予防や健康の増進につながる情報にアクセスしやすい場所はどこにあるのか——着目したのが、民族や文化の垣根を越えて利用され、どの地域にも存在する理髪店や美容院でした。

理髪店や美容院は、マレーシアの文化に深く根付き、地域のコミュニケーションにおける中心的な役割を担っています。男女別に理髪店や美容院を利用する習慣が続いており、健康に関する課題を率直に話し合ったり、健康に対する意識向上を促すキャンペーンを行ううえで理想的な場所です。

 

BEAUTY & Healthプログラムのローンチイベント
BEAUTY & Healthプログラムのローンチイベント

 

互いの強みを活かした有意義なコラボレーション

BEAUTY & Health プログラムを成功へと導くためには、多様なスキルと経験が求められます。しかし、そうした資質を備えた人材を1つの組織で揃えることは難しいため、コラボレーションが最適解となりました。本プログラムでは、マレーシアでがん疾患啓発活動を主導してきた NCSM に、ACFの豊富な学術的知見が加わる体制がつくられました。

2004年に設立されたACFは、河原ノリエ氏が代表を務め、「誰一人取り残さないがん医療実現のための社会実装」を掲げてアジア各国でさまざまな取り組みを行っています。BEAUTY & Health プログラムでは、がん予防に関する広範な情報発信、意識の向上、患者さんが自身の健康を管理できる社会の実現をゴールとし、必要な知識を次世代に継承していくサイクルの確立を推進しています。
 

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マレーシアで最も歴史のあるがん対策の非政府組織(NGO)であるNCSMは、教育・ケア・サポートを柱として活動しています。Murallitharan Munisamy准教授のリーダーシップのもと、ACF との協働で本プログラムのウェブサイトやがん検診登録ポータル、各種教材等を制作し、プログラムの強化・拡大にも積極的に取り組んでいます。

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3年計画で強固なプラットフォーム構築を目指す

本プロジェクトは、長期にわたり持続可能なプログラムとするための基礎を確立する 3 年計画の第 2 段階にあります。NCSMとACFはデジタル技術を活用し、誰もが個々のライフスタイルに合わせて、がんの検診、治療、予後に関する情報にアクセスできるシステムの構築を目指しています。

啓発教材の開発に注力した第1段階に続き、第 2 段階では、検診および関連活動から収集した健康情報の保管や、メッセージの配信を行うための IT プラットフォームの構築を行っています。更に2024年には理髪店と美容院のネットワークを拡大し、がんの予防と早期発見に対する意識を高めていきます。

マレーシア国民のがん検診への認識を変化させることは、医療へのアクセスや認知、さらには政情不安という課題が相まって、BEAUTY & Health プログラム関係者にとって大きな挑戦です。しかし、プロジェクトチームは着実に成長し、開発した啓発教材への好意的な反応を得るなど、確かな手応えを感じています。

 

地域の美容院スタッフとの交流
地域の美容院スタッフとの交流

 

またNCSMは、11種類のがん啓発動画をマレーシアの主要4言語(マレー語、英語、北京語、タミル語)で制作。その際、北京語版には中国人俳優を、タミル語版にはインド人コミュニティの人々を起用するなどコミュニケーション対象者の文化的背景に配慮したことで、動画を視聴した多くの人々から、さまざまな民族や言語に配慮した健康増進活動である、と賞賛の言葉をいただきました。

 

サステナブルな未来につながる資産をつくる

BEAUTY & Health プログラムは、がん疾患啓発を主導するという共通点を持ちつつ、特長が異なる2つの組織が連携し、最高のパフォーマンスを発揮している好事例です。将来のサービスや活動に向けて着実な準備を進めて、IT プラットフォーム (National Cancer Registry) と BEAUTY & Healthの啓発教材というサステナブルな資産を築き上げて、今後もマレーシア全土への普及に努めていきます。

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BEAUTY & Healthプログラムは、アステラスにさまざまなアイデアやビジネスの視点をもたらすと同時に、有意義な議論や協働を促すプラットフォームとして、あらゆるステークホルダーにとって貴重な事例となりました。本プロジェクトを通じて、国境や文化を超えたコラボレーションが、がんとの闘いに効果的であると実感しています。
今後も、プロジェクトマネージャーとして、Munisamy准教授や河原氏をはじめとする情熱的なプロジェクトリーダーから得たインスピレーションに加え、当社のがんに関する知識・経験を活かして、がん検診の受診率向上と早期発見に向けた取り組みをさらに強化していきたいと考えています。

アステラスの保健医療へのアクセス向上の取り組みに関する詳細は、こちらをご覧ください

Ministry of Health Malaysia. Malaysia National Cancer Registry Report 2012-2016, 2019, pp.1

 


 

Featured Topic:

BEAUTY & Health プログラムは、 2024年1⽉31⽇にシンガポールで開催されたAsia Business Conclave 2024において、 アジア全域でのがんに関する国際的な共同研究として評価され「Transformative Approach to Health Prevention in Asia」を受賞しました。
詳しくはこちらをご覧ください
 


 

 

 

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