2023.10.10

新たな患者会支援の形 ~人を育て、自立を後押しする

新たな患者会支援の形 ~人を育て、自立を後押しする

患者会という組織をご存知ですか?同じ病気を抱える患者さんたちが、お互いに支え合い、病気について学び合える場所であるとともに、社会に対してその病気に関する情報を発信し、療養環境の改善を目指す重要な役割も担っています。しかし、全ての患者会の活動が十分とは言えません。特に希少疾患の患者会は、運営面でさまざまな課題を抱えています。

アステラスではこれまで、多くの患者会の活動を支援してきました。サステナビリティ部の石井優里はアステラスの患者会支援活動(スターライトパートナー活動)をリードしてきた1人です。長らく活動を続ける中で、従来型の支援に疑問を抱き、患者会支援のあり方を変えようと奔走してきました。

石井が患者会の支援を担当するようになったのは今からおよそ10年前。アステラス入社後、MR(医薬情報担当者)や、人事で新入社員の採用などを経て、2013年に患者会支援を担当することになりました。これまでのキャリアを振り返り、「MRでは医療関係者と、人事では学生といったように、社外のステークホルダーと対話する機会が多かったことから、アステラスが外部からどのように映っているかということを常に意識してきました。患者会支援の担当になった際も、患者さんとのコミュニケーション機会が多くあるため、患者さんの目線を見失わず、この支援が本当に役に立っているのか常に考え、届く声に真摯に向き合おうという気持ちでした」と話します。

患者会支援の担当になった当時、活動の中核は助成金による支援でした。助成先は公募で決めており、石井の役割は応募受付から最終審査までの運営管理をする事務局業務でした。毎年、数多くの患者会からの応募資料を読み込み、支援を必要としている患者さんのことを思いながら、助成先を選定するための準備を整えていました。

 

助成金支援のジレンマ

ところがある時、多くの患者会が、毎年同じ内容で応募し続けていることに対して疑問をもつようになりました。「私たちがこの支援をしなくなったら、この団体はどうなるのだろう。患者さんにとって患者会は必要な場所で、金銭面の支援は重要だけれど、私たちが今やっていることは、本当に患者会の持続的な活動を支えるために役に立っているのだろうか」。そしてその疑問は、その後の患者会支援の在り方を変える大きなきっかけとなりました。

翌年。応募資格に、助成金は3回までという制限を付けたところ、応募資格を失った患者会から、「この先、どうやっていったらいいのか分からない。支援してもらわないと困る」という声が上がったのです。石井の意志は固まりました。「本当の意味で患者会を支えていくためには、私たちはただ資金を提供するのではなく、資金を調達できる組織になるための支援をしなければいけない」

 

目指すのは患者会組織の「自立」

特に日本の患者会の多くは、患者さんやそのご家族が中心となり、ボランティアで運営をしています。資金面だけではなく人材や情報の集め方など、組織を運営していく上では多くの課題を抱えています。石井は、NPOなどの非営利組織の支援にも経験豊富な公益社団法人日本フィランソロピー協会の協力を得ながら、患者会が一つの社会的組織として発展をしていくために、組織運営について学べるプログラムを検討し始めました。そうして出来上がったのが、リーダーシップ・トレーニング・プログラムです。

目指すのは患者会組織の「自立」

「資金調達の方法や、人々の意見をまとめるマネジメントスキルなど、組織を運営するための基礎知識を学ぶ内容になっています。このプログラムを通じて、患者会が資金や人材を集める力をつけて、影響力のある社会的組織になることを目指しています。また、研修が患者会同士の連携を生み出し、互いに知恵を出し合える場になればと考えています」
(プログラムの詳細や、開催報告はこちらをご覧ください。)

さらに、患者会にとって重要な役割の1つである、社会への情報発信についても支援が必要と考えました。昨今は医療・創薬といった医療分野への参画機会が増えてきましたが、患者会が人々の療養環境の改善を目指すという社会的な役割を果たすためには、実際に医療を受ける立場として情報発信ができる人材を育成することが必要です。そこでペイシェント エキスパート プログラムを始めました。
「このプログラムでは、外部団体が主催する講座への参加を支援しています。講座では医療制度や医療環境に関する基本的な知識を学ぶほか、医療関係会議などで意見を伝えるためのディベート訓練なども行われています」(講座内容の詳細はこちらをご覧ください。)

「新しい支援の形として、スターライトパートナー活動が主軸においたのは人材の育成です。私たちは人材を育成することで、スターライトパートナー活動の理念にある患者会の自立や持続的発展に貢献しようと考えています。そして、従来から実施している助成金による支援は、これらの人材育成プログラムを受講し、組織の課題を明確にした患者会に対して応募を受け付ける形に変更しました。プログラムで学んだ知識を活用し、持続的発展に向けて必要な課題を見出した後に、その事業や活動に私たちの助成金をぜひ活用していただきたいです」と石井は話します。

リーダーシップトレーニングプログラムに参加した患者会、講師の皆さま
(リーダーシップトレーニングプログラムに参加した患者会、講師の皆さま)


 

共に歩むパートナーとして

石井は患者会支援を通じてどのような未来を思い描いているのでしょうか。

「プログラムに参加して出会った方々のお話を聞くと、『最初は自分が病気になったことで、とにかく同じ病気の人と話がしたい、話を聞いて欲しいという気持ちで患者会に入りました。同じ病気をもつ仲間が集まるこの場所で、自分自身がとても助けられた。その思いがあり、今度は自分が仲間を支える側に回りたい、と思って活動しています』という方がとても多いです。また『もしかしたら自分の生きている間に新薬は開発されないかもしれないけれど、次の世代では薬が開発され、この病気がなくなるかもしれない。未来の人たちのために治験に参加した。』という方もいらっしゃいました。こうした考えに私自身も沢山の学びを得ました。

共に歩むパートナーとして

最初のきっかけは『自分のため』だったのが、次は『仲間のため』に、そして最終的には『社会のために』という想いで活動を継続している。病気の知識や経験だけではなく、人々の健康という社会課題に対して、想いやエネルギーを持ち合わせた社会的組織が患者会なのだと思います。

既に欧米では、医薬品の研究開発や医療制度に対しても患者会が積極的に参画しているように、患者会は私たち製薬企業にとって、新しい薬を生み出すための重要なパートナーです。スターライトパートナー活動を通じて、日本の患者会も社会的な影響力を強め、いつか世の中にまだない薬を、共に生み出す未来を実現することが、私の目標です」

 

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