ストラテジー
2022.11.14

アステラスのDX戦略シリーズ Vol.4: モノづくりのイノベーション〜医薬品生産の品質管理を向上する新システムを構築

アステラスのDX戦略シリーズ Vol.4: モノづくりのイノベーション〜医薬品生産の品質管理を向上する新システムを構築

製薬業界において、膨大なデータを扱うのは、研究開発だけではありません。モノづくり、生産の現場においても同様です。医薬品の有効成分である原薬の製造においては、構造変換を伴う化学反応や精製といった工程があります。また原薬をもとにした医薬品(製剤)の製造においては、原薬を均一にする混合や錠剤に成形する打錠など、いくつもの工程があります。これらすべての工程において、データを基に厳密な品質管理が必要です。また年々市場規模が拡大しているバイオ医薬品の製造においては、遺伝子の組み換えや細胞の培養など工程はより複雑となり、データに基づく品質管理の難易度も上がります。
 

則岡 正

このような医薬品の生産現場で、患者さんにより良い品質の医薬品を安定的に供給するために、アステラスが独自に開発した最先端のデータマイニングシステム、それが「DAIMON」です。

このシステムの開発を検討し始めたのは、2011年頃。「きっかけは現場の社員からあがった声でした」。開発プロジェクトをリードしてきた則岡 正(製薬技術本部 製剤研究所 プロセス設計研究室)は、当時をこう振り返ります。

 

 

品質・生産トラブルの克服を現場がリード

当時課題となっていたのが、生産段階で得られる膨大なデータを統括するシステムがなく、データを収集・管理し、それらをさらに解析・モニタリングするまでに数年を要してしまうことでした。また、品質・生産トラブルの原因は複雑であり、データを俯瞰的に見て適切に判断し、対応する必要があります。

則岡は、「品質・生産トラブルに備えるシステムを開発することが、より良い品質の医薬品を患者さんに安定供給するために必要ではないか。その結果患者さんの健康や社会的信頼につながるはずだ。という声が現場の社員から上がっていました」と話します。
 

新たなデータマイニングシステムの独自開発に成功

こうしてDAIMON開発プロジェクトは、2013年に正式にスタートしました。

DAIMONという名称は、「Data Analysis and Integration for Multivariate mONitoring」の略。ビッグデータ管理・解析・モニタリングなどのデータサイエンスと、変動検出・原因調査・未然防止などの品質に対する感度を融合した、医薬品のモノづくりにデータマイニングを適用するツールとして開発されました。

「データサイエンスを駆使できる機能を網羅したシステムを創るという思いはありましたが、いざ開発となると、まさに手探り状態でした」。則岡はこう話します。当時は、思い描いた機能を実現できるツールが存在しなかったため、我々製薬技術と、社内の情報システム部門、外部のシステム開発業者と一緒になり、一から作るしかなかったといいます。

新たなデータマイニングシステムの独自開発に成功

開発から5年の歳月をかけて、DAIMONは2018年に実装されます。長期にわたる開発の道のりが頓挫せず成功に結びついたのは、アステラスの企業文化があってこそ、と則岡は強調します。システム開発では、ユーザーとなる製造や品質管理に関わる社員が必要な要件を明確に伝えることが重要で、システム開発が専門外であるからといって、情報システムに開発を任せきりにせず、皆が積極的に意見を出し合い、長期的な視点で適正性を精査するなど、前向きな議論が必要です。また、日常業務と並行してこのプロジェクトに積極的に従事できる人材と、現場の想いに応えるマネジメント層の意思、すなわちボトムアップとトップダウンが有機的に機能する環境がアステラスにあったからこそ、独自開発というミッションを達成することができました。

一人ひとりの品質への感度向上に寄与

一人ひとりの品質への感度向上に寄与

こうして実装されたDAIMONは、まず現場の社員の意識に重要な変化をもたらしました。生産に携わるアステラス社員のモノづくりへの情熱はこれまで以上に高まり、一人ひとりの品質に対する感度の向上にもつながったといいます。
 

織田 匡彦

DAIMON導入以前は、熟練スタッフの経験に頼る部分がありました。現在は、社員が各自のパソコンからいつでもアクセスができるオープンな仕組みとなっており、工程管理値や製品品質のトレンド変化が可視化されました。今後はこのビジュアル化されたデータをもとに、ミーティング等で気づきを共有するなど、社員同士の意識を高める効果を発揮できると考えています。

また「管理線」という、そこを超えてしまうと製造上問題となるラインが自動で計算され可視化されることにより、誰もが共通認識を持って評価できるようになりました。従来、数値を「点」で判断するシーンが多かったことからすると画期的な仕組みですが、同時に「管理線」の概念や意味をしっかりと理解するための学習が必要なので、私自身が率先してそれを実践しました。
DAIMONには自動で相関を計算してくれる機能もありますが、すべてをDAIMONに頼るのではなく、あくまでも人を補助するツールであることを認識し、私たち自身が適切にデータを整理し解析する能力を高めていくことが重要であると考えています。

 

千田 一慶

DAIMONのインターフェースは、従来使用していた表計算ソフトと異なり、使用者の見やすさ・使いやすさを考えて作り込まれています。また相関係数の一覧を算出してグラフィック化するなど多数の機能を搭載し、可視化されるデータ量が増えました。これまで気づき得なかったことを発見できるようになったこともあり、より製品理解が深まりました。

データを簡単に閲覧できるようになったことも利点です。例えば製品試験の結果を閲覧したいとき、以前は担当部署に依頼する必要がありましたが、DAIMONでは製造データと試験結果を同時に確認することができます。あらゆるデータを一元管理できるので、以前のように、トラブルが発生してから過去のデータをあちこちから集めるというような煩雑な作業が省略でき、効率の良い解析体制が実現しました。

また、アラート値を設定できるなど、トラブルを未然に防ぐ機能も備わっています。しかし、アラートを受けた後の判断や対応は人の力が重要です。アステラスが目指す「人とデジタルのベストミックス」実現に向けて、より精度を高めていきたいと考えています。


モノづくりのイノベーションが広がる未来へ

DAIMONによるデータマイニングには、(1)一変量モニタリング、(2)回帰・因果関係モニタリング、(3)多変量モニタリングという、データ量およびデータ解析の複雑さに応じた3つのモニタリングがあります。それぞれを必要に応じて適切に運用することで医薬品のモノづくりから得られる多様なデータに対応できます。
 

モノづくりのイノベーションが広がる未来へ イメージ1


このトレンドモニタリングを起点に、変動検出/リスク予測、原因調査/未然防止、製品とプロセスの理解向上、という知識獲得サイクルを継続的に回すことで、品質・生産トラブルへの対応が迅速となるだけでなく未然に防ぐことが可能となり、医薬品のモノづくりの高度化・安定供給を実現します。

モノづくりのイノベーションが広がる未来へ イメージ2

 

DAIMONは、未来の医薬品のモノづくりを向上させる、唯一無二の技術と考えています。則岡は、「アステラスが、医薬品のモノづくりを俯瞰的に見るノウハウや技術を広げていく中心的な役割を担い、ゆくゆくは業界全体のモノづくりの向上に貢献したい」と話します。
アステラスにおけるDAIMONは、現在は主に低分子医薬品の製造で活用していますが、すでにバイオ医薬品の製造の一部にも取り入れており、今後活用の幅を広げていく予定です。

「DAIMONは有効なシステムですが、得られたデータを読み解くのは人です。またDAIMONを運用していくためには、どのデータを収集・管理すべきか、そしてそれらデータの電子化、解析・モニタリングし続けられる仕組みの構築など、導入までの準備やその後の維持管理が非常に重要です。それには、携わる社員の協力が不可欠です。部門を超えて会社全体でこのシステムを育て、発展させることで、患者さんに提供する『価値』の向上を目指しています。」

 


 

アステラスはすべての事業領域で社員が一丸となって、DXを継続的に推進しています。幅広い取り組みのなかで、特に代表的な取り組みをシリーズで紹介します。

 

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