ストラテジー
2022.08.19

アステラスのDX戦略シリーズ Vol. 3:患者さんの声とテクノロジーを融合した新たな臨床試験のアプローチ

アステラスのDX戦略シリーズ Vol. 3:患者さんの声とテクノロジーを融合した新たな臨床試験のアプローチ

新型コロナウィルス感染症の拡大は、治験施設の一時的な閉鎖など、医薬品開発に甚大な影響を及ぼしました。そのような中で、アステラスなどの製薬企業は、臨床試験を継続するため、在宅で試験を進めるプロセスや技術——いわゆる分散型臨床試験(DCT – Decentralized Clinical Trials)を推進してきました。

DCTの導入は、感染症拡大以前から製薬業界で検討されてきました。今後、DCTを臨床試験の現場で定着させるには、テクノロジーの利便性と患者さんのニーズのバランスを業界全体で検討していく必要があると、アステラスは考えています。アステラスの開発部門で、Clinical Scienceチームの長を務めるマリー・ローゼンフェルド(Marie Rosenfeld)は、ハイブリッド型臨床試験こそ、患者さんごとに個別化した治療の実現と、患者さんの治療体験を向上させる新たなアプローチであると話します。

 

テクノロジーを活用して柔軟な対応を行い、長きにわたる課題を克服

DCTの背景にあるコンセプトは、患者さんや治験施設の負担軽減に向けた臨床試験計画を考え、テクノロジーを導入し、活用することです。在宅医療・遠隔医療・ウェアラブルデバイスなどの活用により、質の高い大規模データの収集が可能になります。また、臨床試験で長きにわたり課題であった被験者の募集と、参加後の継続率の向上にもつながります。希少疾患の新薬開発に不可欠な、多様な患者さんの治験への参加も期待できます。

感染症拡大以前、製薬業界ではDCTへ移行するため、部分的なテクノロジーの活用を検討していましたが、一気通貫したシステムとしての導入は検討されていませんでした。しかし、感染症の拡大によって従来の治験の継続が難しくなり、業界ではこの事態に迅速に対応する必要が生じました。マリーは、「以前の製薬業界で、運用面でも規制面でも不可能とされていたことが、実現できることが証明されました」と述べます。

 

一人ひとりに合わせた医療を目指す

アステラスではテクノロジーの導入を、臨床試験を管理する手段ではなく、向上させる手段と捉えています。従って製薬業界全体で、DCTへの移行を検討する際には、患者さんの声を優先しなければならないと考えています。

マリーは、感染症拡大の発生時に進行していた女性の健康に関する大規模な第Ⅲ相試験を例に挙げます。アステラスでは、患者さんが自宅から臨床試験を継続できるよう、テクノロジーを導入し、在宅医療チームを動員するなど迅速に対応しました。

しかし、米国と欧州の数百人の被験者のうち、在宅医療を選択した割合はわずかでした。ほとんどの参加者は「自宅に訪問されるよりも、医療施設に来院する方がいい」と答えたのです。このような声を受け、アステラスは被験者が地元の医療施設で治験薬を受け取る手配をするなど、柔軟な対応を行いました、その結果、感染症拡大の期間中も被験者の参加率を高く維持できました。

一人ひとりに合わせた医療を目指す

マリーには、患者さんの支援者や、被験者の方々から「テクノロジーの活用は利便性が高いが、医師や介護者との社会的な交流を楽しむ時間は代え難く、オフサイトの臨床試験への参加は気が進まない」という意見を聞いたことを振り返ります。

こうしたこともあり、アステラスでは、患者さんの声とテクノロジーを融合したハイブリッド型臨床試験を実現することが、最適かつ有意義な結果をもたらすと結論付けました。マリーはこれまでの経験をふまえて、「全ての医療は個人の心情に直接関わるものであり、治療薬や治療法を個別化することに限りません。治療以外の部分でも、患者さんごとに個別に対応する方法を見つけられるよう、多様な患者さんや患者団体との対話を継続していきます」と語ります。

ハイブリッド型臨床試験の実現に向けて

ハイブリッド型臨床試験の実現に向けた挑戦は始まったばかりです。マリーは、「アステラスが実現を目指すハイブリッド型臨床試験とは、個々の患者さんのニーズに適した臨床試験を提供すること」と説明します。さらに、実現するための鍵は「テクノロジーを有効活用することにある」と言います。

初期段階では、既存の臨床試験において患者さんの状態を評価する際に、従来の方法とテクノロジーを活用した方法の両方で評価する予定です。このデータ収集方法が、データの正当性を実証し、ハイブリッド型臨床試験の有効性を検証するための鍵となります。

アステラスは実証に向けて、ウェアラブルかつ個別化されたデータ収集アプリを活用した、がん領域の臨床試験を予定しています。適切なインフラが整い次第、「収集されたデータにより、担当医師は潜在的な医学上の問題を知ることができ、アステラスは製品の潜在的な副作用についての詳細情報を知ることができるようになります。患者さんは通院するよりも身近な環境で状態の把握ができ安心して過ごすことができるようになるでしょう」とマリーは言います。また、これまでの臨床試験では発見できなかった副作用を特定できる可能性もあることから、この新しいアプローチがさらに良い結果をもたらす可能性についても述べました。

 

パイロットプログラムの成功が変革をもたらす

マリーは、「アステラスは患者さんが求める臨床試験の提供に注力しているからこそ、ハイブリッド型臨床試験を実現出来ると信じています。しかし、患者さんの安全を第一に考えなければいけない製薬業界だからこそ、現状からの変化に慎重にならざるを得ない側面もあります。そのため、確かなデータを集め、パイロットプログラムを成功させることが、人々の考えの変化を促し、目標の実現につながるはずです」と語ります。

「ハイブリッド型臨床試験への変革を多くの方に認知いただけるようよう、継続的な情報発信が必要です。ハイブリッド型臨床試験が患者さんにとって効果的なアプローチであり、規制の観点からも認められた手法であることを証明していくことで、人々の考え方も変わると信じています」

 

革新的な方法を生み出し、患者さんの治療体験を向上させる

ハイブリッド型臨床試験を実現し、持続的に定着させるためには、重要な課題がまだ残っています。試験結果の妥当性を維持するためには、信頼性の高いWi-Fiへのアクセスや、一貫したデータ収集など、被験者側の環境要因に左右される課題があります。さらに治験施設の観点からは、臨床スタッフによる技術的なトラブルシューティングの必要性や、臨床試験が一部オフサイトで実施されることによる医療事務収入への影響が課題です。また、より大きな視点では、多様な患者さんからデータを収集するため、規制が異なる国や地域における多国間試験の展開方法が課題です。

このような多くの課題を理解した上で、患者さんの治療体験を向上させる革新的な方法を発見することが、私たちの原動力であり、アステラスの信念にも基づいています。適切なリーダーシップのもと、患者さんの声を優先させて対応する、という揺るぎない心があれば、アステラスは課題を乗り越え、新たな臨床試験モデルを実現できると確信しています。

 


 

アステラスはすべての事業領域で社員が一丸となって、DXを継続的に推進しています。幅広い取り組みのなかで、特に代表的な取り組みをシリーズで紹介します。

 

アステラスのDX戦略シリーズ

Vol.1 患者さんの「価値」を創造し、最大化するためのDXを実践

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Vol.2 創薬(研究)「人、AI、ロボットによって強化される創薬プラットフォーム」

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本シリーズのVol.4は2022年9月頃に公開を予定しています。

 

 

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