2022.03.14

免疫システムの再活性化でがんの治癒を目指す

免疫システムの再活性化でがんの治癒を目指す


多くの人ががんを身近に経験したことがあると思います。近年がん治療は目覚ましい進歩を遂げていますが、未だに多くの患者さんが新しい有効な治療法を待ち望んでいます。

アステラスでは研究開発の戦略として、Focus Areaアプローチという考え方をとっています。病態関連性が高いバイオロジーを理解し、汎用性のあるモダリティ/テクノロジーを組み合わせ、アンメットメディカルニーズの高い疾患にアプローチします。私たちがこれまで培ってきた知見、技術を活かし、注力する領域をPrimary Focusとし、患者さんに革新的な「価値」を提供できるよう、治療法の研究開発に取り組んでいます。その一つである「がん免疫」をリードするピーター・サンダー(Peter Sandor)は、「いつかがんを克服できる日が来ると信じている」と語ります。

私たちはがん領域における幅広い専門知識、経験、独自の技術を活かし、免疫システムの機能を再活性化させ、より多くの患者さんでがん細胞を発見し、破壊することを目指しています。そのために、外部パートナーとの提携や、日米の研究開発拠点におけるケイパビリティの最大化を通じて、革新的で多機能なモダリティプラットフォームの確立を進めています。

 

革新的ながん免疫パイプラインを拡充

免疫システムの機能を再活性化、修正することでがんを治療するがん免疫療法。新たな治療選択肢として免疫チェックポイント阻害剤が登場し、がん治療はパラダイムシフトを迎えました。

人間の免疫システムは、バクテリアやウイルスなどの外部からの侵入から、体を守る役割を果たしています。また、がん細胞のような、体内で発生した病気の原因と闘う役割も担っています。しかしながらがん細胞は、免疫システムを巧みに操り、探知や攻撃から逃れることができます。免疫チェックポイント阻害剤は、体に潜んでいるがん細胞を、免疫システムが攻撃できるようにする、がん治療において非常に有効な治療法です。

しかし、この治療法だけではがんを完全に治療するには不十分です。現在承認されている免疫チェックポイント阻害剤に有効性を示す患者さんは、わずか20%にとどまっています。がん細胞表面のタンパク質の発現状況など、患者さんによってがんの性質が異なることが、単剤治療の効果を減少させる理由として挙げられます。より多くの患者さんの、がん免疫療法の効果を高めるには、がん免疫システム全体に働きかけ、同時に複数の免疫細胞を刺激してがん細胞への攻撃力を維持、強化する仕組みが必要となります。

ピーター・サンダーは、がん免疫の研究開発ビジョンを次のように語ります。
「アステラスでは免疫サイクルを最大限活用するため、革新的なアプローチを取っています。多機能なモダリティプラットフォームから構成される幅広いパイプラインの確立によって20%を100%にし、残り約80%の未だ有効な治療法のない患者さん、もしくは治療抵抗性を示している患者さんにがん免疫療法を届け、がんの克服を目指します。」

強固で多機能なプラットフォームの構築

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アステラスでは、このビジョン実現に向けた戦略的アプローチを「Focus(集中)」「Enrich(強化)」「Expand(拡大)」の3ステップで進行しています。ピーター・サンダーは、「私たちは、2006年にがんを研究開発の重点領域に選定して以降、社内のケイパビリティをがん免疫研究に集中(Focus)させるとともに、外部パートナーとの提携や買収を通じてパイプラインの強化(Enrich)を進め、自社の基盤を拡充させてきました。同時に、外部のバイオテク企業やアカデミアなどのベストイノベーターとの提携を通じて新たなサイエンスを拡大(Expand)させています」と話します。

※1 Kourie HR, Klastersky JA. Side-effects of checkpoint inhibitor-based combination therapy. Curr Opin Oncol. 2016;28(4): 306-13.

 

社内のモダリティプラットフォームを活用した新たながん免疫療法の創出

アステラスは、がん免疫サイクル全体を標的にする多様なアプローチの研究開発に取り組んでいます。幅広いパイプラインを推進しており、その中には複数のモダリティによって、複数の異なる免疫機能を同時に刺激し、がんに対する免疫応答全体を誘導するものも含まれます。

例えば免疫刺激物質を搭載した腫瘍溶解性ウイルスは、特定のがん細胞に選択的に感染して破壊すると同時に、体内の他の場所に存在する同種のがん細胞を免疫細胞が認識して攻撃する反応を引き起こします。

人工アジュバントベクター細胞(aAVC)プラットフォーム技術は、ナチュラルキラー細胞やT細胞、樹状細胞などにがん抗原や免疫刺激物質を届けることで、自然免疫と獲得免疫の両方を誘導します。また二重特異性免疫細胞誘導は、細胞傷害性T細胞をがん細胞に動員することで、がん細胞を死滅させます。

がん免疫のパイプラインの詳細はこちらをご覧ください。

このほか、買収によって獲得した技術を組み合わせた革新的がん免疫療法の研究も進行中です。その代表例は、ユニバーサルセルズ(Universal Cells)社が持つユニバーサルドナー細胞(Universal Donor Cell/UDC)技術と、ザイフォス(Xyphos)社が持つキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor/CAR)細胞療法に関する技術プラットフォームであるACCELTM(Advanced Cellular Control through Engineered Ligands)の組み合わせです。これによって、現在のCAR細胞療法よりも、迅速で柔軟性のある他家細胞医療プラットフォームを構築しようとしています。
 


UDC技術は、複数の最先端遺伝子編集アプローチを用いて、免疫拒絶反応が起きない多能性幹細胞を正確に創出する技術です。そしてそれをナチュラルキラー細胞のような細胞障害性細胞に分化させます。そこにザイフォス社のconvertible CAR®細胞とMicAbodyを組み合わせ、特定のがん抗原を標的とし、攻撃できるようにします。これにより、複数のがん抗原を同時に標的とすることや、病気の進行に応じて標的を変えることが可能になります(詳しくはこちら)。私たちは患者さんにより大きな「価値」をもたらすため、差別化されたがん細胞医療プラットフォームの構築を目指しています。
「このように複数の技術を組み合わせて、革新的な治療法の開発が出来る点が、アステラスの強みであり、情熱をもって取り組んでいます。これにより、より多くの患者さんに治療法を届ける可能性が広がります。」とピーター・サンダーは力強く語ります。

 

 

がん免疫領域におけるアステラスのグローバルネットワーク

がん免疫領域におけるアステラスのグローバルネットワーク

アステラスは、米国の研究拠点と日本のつくば研究センターを中心に、がん免疫領域における創薬研究、臨床開発、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)、製造に取り組んでいます。また、革新的な科学力や技術力を持つ外部のベストイノベーターとの連携にも積極的に取り組んでいます。KaliVir社やXencor社、CytomX社などのバイオテクノロジー企業、鳥取大学や理化学研究所、米国テキサス大学のMD Anderson Cancer Center やペンシルベニア大学などのアカデミアとの連携は、アステラスのケイパビリティを最大化し、がん免疫研究の可能性を拡げています。

研究シーズの実用化に向けたトランスレーショナルリサーチを行っているのが、米国マサチューセッツ州ケンブリッジの研究開発拠点です。薬物の作用機序や腫瘍免疫微小環境の関連性をもとに適応症や患者層を選択し、アステラスのパイプラインと、既存のがん治療薬をどのように組み合わせたら良いかを探索しています。

2015年には米国シアトルのユニバーサルセルズ社がアステラスの一員となり、UDC技術の活用と細胞の分化に注力しています。また2019年末にザイフォス社が加わり、2020年10月には米国・サウスサンフランシスコにがん免疫における細胞医療のCenter of Excellence(CoE、中核拠点)を設立しました。

経験豊富な研究者がチームをリードし、個々の患者ニーズに合わせて多用な標的に応用可能な、精密でオフザシェルフの「標準的な医薬品と同様の細胞医療」を固形がんの治療法として提供することを目指しています。

 

より多くの患者さんにがん免疫療法の選択肢を提供する

アステラスの究極のゴールは、世界中でがんを克服する方法を見つけることです。ピーター・サンダーは、「アステラスは独自のケイパビリティと技術プラットフォームを活用し、また外部のバイオテク企業やアカデミアの優秀な人材、パートナーと協働しながら革新的なパイプラインを拡大し続けていきます。」と語ります。「私たちは業界内でも有数の、多様性に溢れ、有能なメンバーで構成されるがん領域のチームを有しており、そのチーム力で新しい治療法への光を切り拓くことが出来ると信じています。がん免疫療法を必要とする世界中の患者さんに届けるための道半ばにいますが、がんは待ってはくれません。私たちはその想いを背負い、ゴールを目指しているのです」

 

 

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