創薬の最先端へ:人×AI×ロボットが切り拓く未来

AI創薬は、今後どのように進化し、発展していくのでしょうか。
多くの製薬企業がAI創薬への投資を強化するなか、アステラスは2019年から創薬プロセスへのAI導入に着手しました。そして、創薬プロセスの加速を目指し、中核となる「人×AI×ロボットを統合した“Human-in-the-Loop”型の医薬品創製プラットフォーム(以下、AI駆動型創薬プラットフォーム)」を開発しました。
研究、プラットフォーム開発、デジタル・イノベーションなど、幅広い専門家による部門横断型のプロジェクトチームによって開発されたAIを活用したアプローチにより、アステラスの医薬品開発は今、新たな段階を迎えています。
プロジェクトチームおよびAI主導の革新的な創薬プロセスの詳細については、以下の動画と、その下に続く記事をご覧ください。
AIに対する不安を取り除き、イノベーションを推進
AI創薬プロジェクトチームメンバー(左から以下のとおり)
根来 賢二(Head, Platform Sciences & Modalities, Oncology Research)
森 健一(Lead, Modality Informatics, DigitalX)
栗脇 生実(Team Lead, Dx-Chemistry, Platform Sciences & Modalities, Oncology Research)
小池 貴徳(Head, Drug Discovery Unit I, Innovation Labs Astellas Therapeutics Accelerator)
アステラスの研究者たちは、当初、創薬プロセスにAI技術を取り入れることに躊躇していましたが、AI創薬プロジェクトチームが研究者の不安を解消する上で重要な役割を果たしました。
「AI導入の初期段階では、実際の研究で効果的に活用してもらうことが最大の課題でした」とデジタルX、モダリティインフォマティクス リードの森健一は語ります。この課題に対処するため、プロジェクトチームは主に2つのアプローチを実施しました。1つ目は、少数の研究者に試験的にAI駆動型創薬プラットフォームを使用してもらい、フィードバックを得ながらシステムを改善したことです。2つ目は、AI駆動型創薬プラットフォームにデジタル技術を融合させることで、研究者の負担となっていたデータ収集や研究資料の準備作業を効率化し、作業時間を大幅に軽減したことです。
これにより、研究者がプラットフォームを繰り返し利用するようになり、そこで収集されたデータによってAIの予測精度が向上しました。これを2年以上にわたって継続した結果、多くの研究者がプラットフォームを意欲的に活用するようになりました。現在、アステラスの研究開発部門では、低分子および中分子の創薬で広く活用されています。
「新たなテクノロジーの活用には、人それぞれ向き不向きがあり、開発者が便利だから使ってくださいと一方的に指示しても説得力がありません」とオンコロジーリサーチ、プラットフォームサイエンス&モダリティ、Dxケミストリーチームリードの栗脇生実は語ります。「部門間のサイロを解消したことがプロジェクト成功の重要な要因となり、プロジェクトチームメンバーが技術的な利点を理解することにつながりました」
AIとロボットを活用し、創薬を加速
医薬品開発は通常、長く複雑なプロセスを経て9〜16年かかることが一般的です。また、低分子創薬の成功率は約2万3,000分の1とされています。*アステラスでは、AIを活用することで、病気の原因となる標的分子に結合しやすい化合物(ヒット化合物)から、医薬品としての適性を高めた化合物(医薬品候補化合物)を取得するまでの期間を従来の方法と比べて約70%短縮しました。これにより、世界中の患者さんに、より大きな「価値」を提供できるようになりました。
AI駆動型創薬プラットフォームは、従来の方法では見落とされがちだった有望な化合物をAIが特定し、研究者の想像を超える発見をもたらしました。また、このプラットフォームは生成された化合物の薬理活性や医薬品特性をわかりやすく示すため、研究者は最も有望で高い効果を持つ可能性のある化合物を抽出し、効率良く研究を進めることができるようになりました。
さらに、このプラットフォームには、ロボットによる化合物の自動合成機能や薬理作用の評価を遠隔で監視できる機能も統合されています。このため、アステラスの研究者は反復作業から解放され、実験結果から、より深い洞察を得たり、創薬の新たなアイデアを生み出すなど、創造的な業務に時間を割くことができるようになりました。
「AIが設計し、予測し、ロボットが自動合成した化合物が既に臨床試験に進む段階に達しています」と、オンコロジーリサーチ、プラットフォームサイエンス&モダリティ長の根来賢二は語ります。「AI駆動型創薬プラットフォームの活用が進み、AI創薬がますます現実的なものとなっていると実感しています。この成果に対する反響は社外でも大きく、非常に嬉しく思っています」
また、イノベーションラボ、アステラスセラピューティックアクセレレーター、ドラッグディスカバリーユニット長の小池貴徳は、「AI技術の普及に伴い、研究者はAIに任せるべきタスクと人が担うべきタスクのバランスを判断できるようになりました。このバランスがユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させ、AI導入の成功に寄与しました」と語ります。
科学の限界を押し広げる
アステラスでは、AI駆動型創薬プラットフォームに加えて、組織全体にAIツールを導入することで、研究、開発、製造、販売、ビジネス開発、ライフサイクルマネジメントを含むバリューチェーン全体のイノベーションと効率化を推進しています。
アステラスのデジタル&変革担当CDTO(Chief Digital & Transformation Officer)であるNick Eshkenaziは、この部門横断的なアプローチの重要性を強調します。
AI駆動型の創薬力を強化するために、アステラスは研究開発におけるAI活用に注力するだけでなく、データサイエンティストやロボティクスアルゴリズムの専門家など、高度な専門知識を持つ人材の採用にも力を入れている、と研究開発担当CRDO(Chief Research & Development Officer)の谷口忠明は語ります。
高度なAIテクノロジーを統合することで、創薬プロセスが合理化され、より効果的な治療法の開発が期待されます。アステラスは、これからもAIへの投資を継続し、その能力向上に努め、イノベーションを推進していきます。そして、患者さんの進化するニーズに応え、健康の向上に貢献することを目指しています。
私たちは引き続きAIに取り組み、知識基盤を拡大するとともに、重要な機能を支えるために必要な人材の獲得にも注力していきます。AIに関する専門知識を高めることで、イノベーションを重視する社風を育み、医薬品開発における新たな可能性を探究してまいります。
* 出所:日本製薬工業協会「2024製薬協ガイド」
出典:日本製薬工業協会 DATA BOOK 2024
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