アジャイルマインドセットで実現する患者さんとのエンゲージ強化

本記事には、実際の患者さんの体験談が含まれています。特定の患者さんの体験に触れていますが、典型的な患者さんの体験を示すものではありません。また、特定の治療法や医薬品を推奨するものでもありません。気になる症状や医学的な懸念がある場合、また、適切な診断と治療を受けるためには適切な医療機関を受診ください。
新しい治療法を必要とする患者さんに製品を届ける商業化プロセスは、研究開発プロセスと同様に重要です。しかし、従来の医薬品の研究開発から商業化までのプロセスは煩雑で、意思決定に時間がかかり、効率的に進まないことがありました。アステラスでは、こうした課題に対処するためにアジャイルな働き方を展開しています。アジャイルなアプローチにより、部門横断型のコラボレーションを強化し、プロセスの効率化を図ることで、革新的な医薬品をより早く患者さんに提供する道筋を作り出しています。
この取り組みを米国でリードしているのは、アステラス ファーマ USの社長兼コマーシャル部門長であるMike Petroutsas(以下、マイク)です。マイクは、アジャイルなアプローチを通じて組織の潜在能力を引き出し、患者さんの視点を取り入れた医療やケアの実践、商業化プロセスの効率化をより大胆に推進できると語ります。このアプローチを用いて、アステラスがどのように商業化プロセスを短縮し、患者さんや医療従事者に大きな「価値」を提供できるのか——アジャイルマインドセットがもたらす効果とともに紹介します。
製薬業界における商業化プロセスの再定義
アジャイルとは、計画に固執せず、柔軟性やコラボレーション、継続的な学習を通じて変化に対応し、高い成果を目指す考え方です。マイクは次のように語ります。
「私たちはこれまで、商業化プロセスを製品販売までの一本道と捉える傾向がありました。しかし、今ではコマーシャル部門が医薬品の研究開発の早い段階から関与し、部門横断型のコミュニケーションを取ることが重要だと考えています。それにより、患者さんの医薬品へのアクセスや市場の動向、また、理念や概念だけでなく、実務での活用について、早い段階からさまざまな視点で議論できるようになりました」
このアプローチは、従来のサイロ化された医薬品開発や商業化プロセスから脱却し、部門横断型のコミュニケーションを促進するよう設計されています。部門横断型のチームが早期に課題を特定し、リアルタイムで調整を行う体制を整えることで、迅速な商業化が可能になります。2024年には、バイオテクノロジー分野でのさらなる躍進を目指し、米国のカリフォルニア州サウスサンフランシスコとマサチューセッツ州ケンブリッジに最先端のイノベーションセンターを設立しました。この東西2拠点は、「アイデアは、部門を超えた自発的なコラボレーションから生まれる」という原則に基づき、対面での交流を促す構造で設計されています。
アステラスにおけるアジャイルマインドセットの実践
アステラスがどのようにアジャイルな働き方を実践しているかについて、マイクは2025年3月に開催されたReuters Pharma USAの基調講演で説明しました。アステラスにおけるアジャイルとは、迅速に行動し、継続的に学び、実社会から得られるさまざまな洞察に基づいて変化に適応することを指します。具体的には、部門横断型のチームが複雑な課題を管理しやすいステップに分解し、改良するプロセスを繰り返し、次の課題解決に活かしていきます。そして、商業化までの期間を短縮することが可能になります。
この反復的なアプローチにより、商業化プロセスを大胆かつ効率的に進め、患者さんや市場のニーズを迅速かつ的確に捉えることができます。マイクは、「物事を柔軟に進化させるように働きかけることが重要だ」と語ります。
「アジャイルマインドセットを持つことで、ビジネスの進め方が根本的に変わります。私たちはソリューションをより迅速に商業化し、患者さんや医療従事者のニーズに応えられるようになりました」
業界の進化への適応
複雑化する医療システムや多様化する患者さんのニーズ、業界トレンドの変化に伴い、研究開発費が上昇する状況に対して、製薬企業は柔軟な対応を求められています。アジャイルマインドセットを持つことで、製薬業界の進化に適応し、競争力を強化することが可能です。
例えば、個別化医療に対する需要の高まりは、業界における大きな変化の一つです。マイクは、医師と患者さんがそれぞれに最適化された治療法を求めていると述べています。
「以前に比べて、患者さんがアクセスできる情報量は飛躍的に増えました。そのため、患者さんが自身の治療に最適化された医療を求める傾向が強くなっています。診断および治療プロセスの中で、適切なタイミングでニーズに応える情報を提供することが、私たちの役割です」
このような急激な変化に適応するために、アジャイルが効果を発揮します。計画に固執するのではなく、必要に応じて柔軟に行動することで、市場のニーズに迅速に対応できる競争力を維持できます。
患者さんへの影響と実例
アジャイルな働き方は、アステラス社内で新しいプロセスを確立するだけでなく、患者さんにもさまざまな影響が及びます。マイクは、Reuters Pharma USAの基調講演で、アステラスのアジャイルなアプローチがどのように変化をもたらしているかを、2人の患者さんの実例を交えて紹介しました。
患者さんに適した教育への変革:ある患者さんは加齢黄斑変性(AMD) と診断され、その後、症状が地図状萎縮に進行しました。アステラスは、この患者さんとの交流を通じて、若い世代の患者さんに適した教育支援の必要性を認識しました。その結果、患者さん向けの教育やサポート資料を改善しました。また、この患者さんから得た洞察は、新しい患者セグメンテーション戦略の策定に役立ち、さまざまなマーケティング資料や教材にも患者さんの状況が反映されるようになりました。
女性特有の疾患に対する変革:ある女性は、10年以上にわたり、体内が燃えるような感覚のホットフラッシュに悩まされていました。その当時、多くの医師はこの症状に対する治療に消極的でしたが、アステラスはその緊急性を認識しました。そして、患者さんの日常を改善するための医薬品の開発に取り組みました。アステラスのアジャイルな働き方により、命を脅かす病気の治療だけではなく、患者さんの日常生活の改善を見据えた新たなイノベーションを迅速に市場に提供することができました。
製薬業界におけるアジャイルの未来
アステラスは業務においてアジャイルなアプローチを推進し、今後さまざまな部門へ展開していきます。アジャイルが商業化プロセスに大きく影響することは明らかですが、大規模な組織でアジャイルを広く浸透させるには、複雑な変化に対応する必要があります。マイクは次のように語ります。
「アジャイルが商業化をどのように変革するのかを直接目の当たりにしています。さらに、アジャイルマインドセットを展開することで、市場へのアクセスや患者さんとのコミュニケーションの最適化、組織全体の意思決定の向上に役立てることができます」
また、この取り組みの一環として、アジャイルが与える影響を測定する最適な方法を模索しています。たとえば、ネット・プロモーター・スコア(Net Promoter Scores)を用いて医師の満足度を評価し、アステラス製品の推奨度を指標化するなど、顧客視点でパフォーマンスを可視化する仕組みを導入しています。さらに、デジタルコンテンツのクリックスルー率や閲覧時間、閲覧パターンなど、デジタルエンゲージメントの測定基準を分析することで、ステークホルダーの共感ポイントやコンテンツの改善点を明らかにし、アジャイルとの関連性や影響を正しく理解できるよう努めています。
アジャイルへの移行は簡単ではありません。長年培われてきたプロセスを変更し、アジャイルな働き方を導入することは、従業員の意識を根本的に変えることにつながります。ヘルスケア業界が停滞を許されない今だからこそ、変革する必要があります。そして、患者さんの治療やケアに影響を与えるすべての部門に対して、新しいアジャイルな働き方を築こうとしています。この変革は、業界の変化に対応するためだけではなく、ヘルスケアの未来を積極的に創造するために行われています。私たちはアジャイルマインドセットを持ち、会社として変革し続け、社会により良いインパクトを与えるために、これからも進化を続けていきます。
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