国立研究開発法人理化学研究所(本部:埼玉、理事長:松本 紘、以下「理研」)と、アステラス製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長CEO:安川 健司、以下「アステラス製薬」)は、がん領域を対象疾患として、理研が有する人工アジュバントベクター細胞(artificial adjuvant vector cell、以下「aAVC」)作製のための基盤技術(以下、「aAVC技術」)を利用した細胞製剤の研究開発、商業化に関し、全世界における独占的ライセンス契約を締結しました。

 本契約に基づき、アステラス製薬は、特定のがん抗原を対象にaAVC技術を利用した細胞製剤を研究開発、商業化するための権利を取得します。理研は、非営利目的の研究や対象のがん抗原以外の抗原について、aAVC製剤等を研究開発、商業化する権利を留保します。アステラス製薬は理研に対し、契約一時金10億円を支払います。また、研究開発、商業化の進捗に応じたマイルストン、および売上に応じたロイヤリティを支払う可能性があります。

 両者はこれまで、aAVC技術を利用した細胞製剤の共同研究を進めてきました。本共同研究の結果として、現在、アステラス製薬により複数のプログラムが進行中です。その中で最も進んでいるものは、急性骨髄性白血病患者等で高発現しているがん抗原のWT1を搭載したaAVC製剤であるASP7517であり、急性骨髄性白血病および骨髄異形成症候群を対象として、第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の段階にあります。

 がんに対する免疫療法では、生体の防御機構である免疫機能を活性化してがんを攻撃します。免疫機能には、初期段階でがんを非特異的に攻撃する「自然免疫」と、がんを特異的に攻撃する「獲得免疫」があります。従来のがん免疫療法製剤の多くは、自然免疫もしくは獲得免疫のいずれかを活性化することを介して作用します。その中でもがんペプチドワクチンは獲得免疫を活性化することによりがんを攻撃します。一方、ヒト細胞に糖脂質とがん抗原を搭載した改変ヒト細胞から成るaAVC製剤では、糖脂質がナチュラルキラーT細胞を介して自然免疫を活性化し、がん抗原が抗原特異的T細胞を誘導して獲得免疫を活性化することで、双方の免疫機能が活性化され効果的にがんを攻撃することができます。さらに、aAVC製剤では、抗原特異的メモリーT細胞の誘導により、長期間にわたる抗腫瘍効果も期待されます。こうした複合的な免疫機能の作用は、生体における樹状細胞の機能を最大限発揮させることに基づくものです。

 また、がん免疫療法の一つであるがんペプチドワクチンの作用は患者さんの白血球抗原(HLA)型によって異なります。HLA型は自己と非自己を識別する生体のシステムで、がんペプチドワクチンは特定のHLA型を持つ患者さんが治療の対象になります。一方、がん抗原の全長タンパク質を搭載しているaAVC製剤は、HLA型に関わらず多くの患者さんが治療の対象になります。 

 aAVCの開発者である、理研 科技ハブ産連本部 創薬・医療技術基盤プログラム 副プログラムディレクター兼、生命医科学研究センター 免疫細胞治療研究チーム チームリーダーの藤井眞一郎は、「aAVC製剤は、これまでの免疫療法製剤とは作用機序が異なる独自の細胞製剤であり、新たな薬効を有する免疫療法薬として期待できます。今回のプレスリリースは、我々のaAVC技術をアステラス製薬に移転し、臨床開発ステージに入ったことの報告です。このことは、これまで研究医として基礎から臨床研究への橋渡し研究を目標に進めて参りましたが、アカデミアから産業界へのもう一つの橋渡しを達成したことを意味すると思います。また、産学連携による日本発の免疫細胞製剤の開発として新しい扉を開けたことになるとも言えます」と述べています。

 アステラス製薬の代表取締役副社長 経営戦略担当である岡村直樹は、「aAVC技術は免疫機能の活性化に基づいてがんを治療する細胞療法の技術であり、新規のがん免疫プラットフォームとして有望です。このたびの契約締結は、最先端の科学、技術を積極的に取り込み、患者さんの価値に変えていくというアステラス製薬の戦略に基づく取り組みです。私たちは今後、世界中のがん患者さんのアンメットメディカルニーズに応える新たな治療法となり得るaAVC技術に基づく創薬プログラムの研究開発を進めてまいります」と述べています。

 なお、本件によるアステラス製薬の2020年3月期連結業績への影響は軽微です。

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