アステラス製薬株式会社(本社:東京、社長:畑中 好彦、以下「アステラス製薬」)は、ジョンズ・ホプキンス大学(所在地:米国ボルチモア)との共同研究において、クエチアピン(国際一般名、日本での製品名:セロクエル®)に関し、CD-1マウスにおいて細胞周期遺伝子の発現を制御するという新規作用を発見し、その結果が現地時間4月2日付けの米国科学誌「Translational Psychiatry」に掲載されましたので、お知らせします。
アステラス製薬とジョンズ・ホプキンス大学による研究チームは、ヒト臨床投与量を反映した前臨床長期投与試験において、定型抗精神病薬であるハロペリドールと比較して、クエチアピンが細胞周期遺伝子p21/Cdkn1aの発現を特異的に抑制することを明らかにしました。この遺伝子発現抑制は、神経細胞や稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)で検出されました。
統合失調症の陽性症状に対する定型抗精神病薬の薬理作用は、主としてドーパミンD2受容体に対する拮抗活性に基づくと考えられています。一方、近年発売された非定型抗精神病薬は、これまでの定型抗精神病薬を上回る優れた薬効を示し、中でもクエチアピンは、統合失調症に加え、双極性障害におけるうつ状態や大うつ病性障害の適応症で、多くの国で承認されています。クエチアピンの薬理作用はドーパミンD2を初めとして、セロトニン5HT2A、アドレナリンα1を含む神経伝達因子受容体への調節作用に基づくと考えられていますが、脳内における作用部位や細胞内シグナル経路については必ずしも解明されていません。今回の発見により、CD-1マウスにおいて、クエチアピンが、神経細胞ならびに稀突起膠細胞で、細胞内遺伝子発現を調節することが明らかになりました。ヒトでは、患者死後脳を用いた遺伝学、病理学、ならびに遺伝子発現変動研究より示される細胞周期の調節異常や、白質病変を引き起こす稀突起膠細胞の機能異常は、統合失調症や双極性障害におけるうつ状態や大うつ病性障害における共通の病態変化として提唱されています。従って、本研究で明らかとなったクエチアピンの前頭皮質における新規作用により、新たにクエチアピンの薬理作用が説明できる可能性があります。
アステラス製薬は、日本において、統合失調症の効能・効果で、セロクエル®を製造販売しています。また、双極性障害におけるうつ状態や大うつ病性障害の追加適応症において、徐放錠で臨床開発を進めています。
アステラス製薬は、本研究の成果を活かし、新規創薬標的の同定とトランスレーション研究を推進し、神経科学領域での革新的な創薬を目指します。
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【参考資料】
現地時間4月2日付けで米国Translational Psychiatry誌に掲載された論文のタイトルおよび著者名は以下のとおりです。
Title: |
Unique pharmacological actions of atypical neuroleptic quetiapine: |
Authors: | Mari A. Kondo, Katsunori Tajinda, Carlo Colantuoni, Hideki Hiyama, Saurav Seshadri, Beverly Huang, Samantha Pou, Keiko Furukori, Caroline Hookway, Hanna Jaaro-Peled, Shin-ichi Kano, Nobuya Matsuoka, Katsuya Harada, Keni Ni, Jonathan Pevsner, and Akira Sawa |