アステラス製薬株式会社(本社:東京、社長:畑中 好彦、以下「アステラス製薬」)と京都大学iPS細胞研究所(所在地:京都、所長:山中 伸弥、英名:Center for iPS Cell Research and Application (CiRA))は、腎臓の再生医療に関する両者の共同研究において、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)およびヒト胚性幹細胞(ES細胞)から腎臓を再生する過程の一つの段階を効率よく進める方法を発見しました。このたび、この結果を国際幹細胞学会(英名:International Society for Stem Cell Research(ISSCR))第11回年次総会(開催地:ボストン、開催期間:2013年6月12-15日)で発表しました。

  腎臓の再生医療は、慢性腎不全などの難治性腎疾患の治療に貢献するものとして開発が望まれています。難治性腎疾患には現在有効な治療法がなく、高齢化社会の進展により今後も患者の増加が予想されています。また、根治的な治療法となる腎移植では、ドナー不足の問題もあります。
  アステラス製薬は、iPS細胞から腎臓を再生する研究の第一人者である京都大学iPS細胞研究所の長船 健二准教授のグループと、腎臓の再生医療に関する共同研究を行ってきました。この研究では、ES細胞およびiPS細胞のような多能性幹細胞から腎臓の機能単位であるネフロンに存在する細胞を作製し、創薬や再生医療へ応用することに取り組んでいます。
  これまでに長船准教授のグループは、多能性幹細胞をもとに、腎臓が発生する過程で生じる中間中胚葉を効率よく作製する方法を発表しています(Mae S et al., Nat Commun, 2013)。今回の研究では、この中間中胚葉を各種の増殖因子や化合物で処理し、ネフロンを構成する前段階の細胞であるネフロン前駆細胞を効率よく作り出す方法を開発しました。
  また、この方法で作製したネフロン前駆細胞を解析した結果、生体のネフロン前駆細胞に特徴的な各種の遺伝子が発現していること、ネフロンを構成する細胞になる能力があること、in vitro 3次元培養系やin vivoで尿細管に特有のたんぱく質を発現し、尿細管に類似した立体的な構造を形成することを確認しました。

  今回の成果は、ヒトiPS/ES細胞が、胚発生と同様のプロセスによりネフロン前駆細胞になりうることを示しています。今後、ネフロン前駆細胞から、ネフロンを構成する糸球体および尿細管に存在する細胞を作製する方法の開発を進め、将来的には、薬剤の評価や疾患モデルの作製を通した治療薬の開発への応用、さらには、根治療法となりうる細胞治療などの再生医療の実現へ可能性を広げていきます。

  アステラス製薬は、2013年5月に公表した通り、再生医療への取り組みを拡大し、従来取り組んできた再生医薬の研究開発に加え、細胞治療にも本格的に取り組んでいきます。また、iPS細胞のほか、体性幹細胞の技術を用いた研究を推進します。今回の成果を活かして今後も研究を進めることで、革新的な細胞治療の実現を目指します。

以上

腎臓とネフロンについて
  腎臓は、血液から尿中に老廃物を排泄することで、体内の水分や電解質バランスの維持を行うほか、血圧調節や造血、骨代謝などの多様な生理機能の調節を担っています。ネフロンは尿の産生と排泄の機能単位のことで、糸球体とそれに続く1本の尿細管から構成されています。腎不全の状態になると、ネフロンは破壊され、機能を失います。

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