2021.11.30

アステラスが実践するペイシェント・セントリシティ

アステラスが実践するペイシェント・セントリシティ

アステラスのペイシェント・セントリシティ部門長であり、プライマリ・ケア・フィジシャン(米国の患者さんの初期診療を行うかかりつけ医)でもあるアンソニー・ヤニ(Anthony Yanni)は、「ペイシェント・セントリシティ(患者さんの視点を取り入れた医療・ケア)について議論する際、『素晴らしいテーマだが、結局その議論にはどのような意味があるのか?』という質問をよく耳にします」と話します。この議論は、ヘルスケア業界全体で活発に行われていますが、製薬企業と患者さんの双方に確かな変化をもたらすためには、議論で終わらせるのではなく意味ある行動へと進化させることが重要です。

アステラスのペイシェント・セントリシティは、単なる流行語や決まり文句ではなく、行動です。患者さんを取り巻く医療環境について根本的な理解を深めて実践されるものです。そのためには、医薬品の供給に至る全てのプロセスや能力を作り上げることが必要です。医薬品の開発プロセスにおいては、研究者の考えだけではなく、患者さんの声も反映させることが求められます。

私たちは、患者さんの体験、医療ニーズ、実際の患者さんの行動に関する深い知見をもとに、革新的な医療ソリューションの開発をサポートすることを目指しています。これは単なる理想論ではなく、現実的な行動指針であり、アステラスの経営計画を実現するうえで必要不可欠な要素となっています。

 

 

ペイシェント・セントリシティを意義ある文化へ

ペイシェント・セントリシティを意義ある文化へ

製薬企業にペイシェント・セントリシティの取り組みを専門とするチームがあることは冗長に見えるかもしれません。なぜなら、製薬企業にとって、患者さんの医療ニーズに応える創薬、開発、医薬品を供給する上で、患者さんの視点を取り入れることは当然であるはずだからです。

しかし、「医療の価値」という概念はいろいろな解釈が可能で、時には画一的な治療法の標準化に価値があるとされ、新薬の「成功」が実際の医療現場ではなく、研究室の中で判断されるようになりがちです。

アンソニー・ヤニは、臨床医として12年以上、多くの患者さんの治療にあたりました。その中で、患者さんにとって何が最も大切なのかをあらゆる角度から洞察し、理解を深めてきました。当時、他の医療関係者から、医療の価値について意見を求められた際、「私一人の意見など全く意味がない。それよりも、多くの患者さんが私たちに意見を言える機会を作ることが必要だ」と答えました。

いまやペイシェント・セントリシティは、製薬業界が注目する分野となっています。ペイシェント・セントリシティを考えない製薬企業は、業界から取り残されてしまうことに気づいた、とアンソニー・ヤニは述べます。もちろん、単なる議論に留まらず、確かな行動が伴わなければ意味がありません。
「議論することや、患者さんに会って情報を書き留めることは容易だが、集めた情報を基にどう行動するかが重要だ」とアンソニー・ヤニは語ります。
さらに「製薬企業として、創薬、開発、供給において、新たな意思決定プロセスを実現するために業務基盤をどのように変えていけばいいのか?」と問いかけます。

 

「治療」と「ケア」の違いとは

意義あるペイシェント・セントリシティを定義することは困難です。医療環境は刻々と変化し、患者さんと介護者の感情や行動にも影響を受けるため、流動的な概念として捉える必要があります。そのため、意義あるペイシェント・セントリシティの文化を形成するうえで、医療環境の変化、患者さんと介護者の感情や行動を理解し、適応することが重要になります。
新型コロナウイルス感染症の拡大とデジタルヘルスケアの台頭により、医療環境が変わり、ペイシェント・セントリシティの重要な要素でありながらも見過ごされがちであった、「治療」と「ケア」の違いが明らかになりました。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会全体で従来の考え方や行動様式を大きく変え、製薬企業においても従来とは異なる行動が求められました。アンソニー・ヤニは「製薬企業や規制当局が実直に患者さんの声に耳を傾け、対話すれば、飛躍的な進歩がスピーディーに起こることが実証された」と言います。  

世界中を混乱に陥れた未曾有のパンデミックに対し、医療現場は多くの貢献をしました。一方で、がんなどの新型コロナウイルス感染症以外の疾患を持つ患者さんには、治療に不便や不安を強いることになりました。例えば介護者のサポートなく一人で治療を受けることや、生命を左右する病気の診断をオンラインでモニター越しに受けることを余儀なくされた患者さんもいました。やむを得ない状況であっても、環境の変化による患者さんの不安やストレスを理解し、適切な対応を取ることが大切です。

これが、治療とケアの違いです。アンソニー・ヤニは「治療とは、研究開発された医薬品を提供することであり、製薬企業が得意としている。一方で病気による不安や疲労など、治療以外で患者さんが悩んでいる問題を理解することについては、まだ十分に対応しているとは言えない」と述べます。

デジタルヘルスケアの台頭で、この課題に対応する機会が訪れています。患者さんが身に着けることができるデジタル機器を適切に活用すれば、患者さんの感情やライフスタイルを把握でき、治療を越えたケアを提供する上での大きな飛躍につながる可能性があります。ただし、患者さんが機器を身に着ける場合には、ペイシェント・セントリシティのアプローチと同様に、患者さんのプライバシーへの細やかな配慮が必要です。
また、機器を使用するにあたり、患者さんに使用する目的や使い方等を十分にご理解いただくことも重要です。

 

社員一人ひとりが実践する、アステラスのペイシェント・セントリシティ

社員一人ひとりが実践する、アステラスのペイシェント・セントリシティ

それでは、患者さんの行動から得られた洞察をどのようにして意義のある確かな行動に繋げていけるでしょうか。アステラスは、患者さんの価値創造と提供に向けて、「経営計画2021」において重要な目標と実行計画を発表しました。また価値の共通定義の方程式を設定し、分子を「患者にとって真に重要なアウトカム」と定義しています。

社員一人ひとりが実践する、アステラスのペイシェント・セントリシティ

 価値の共通定義の詳細はこちらをご覧ください。

アステラスが実際に価値を創造し提供するためには、チームや部門を問わず、社員一人ひとりが患者さんを意識して行動し、日々の業務に反映させるという企業文化を醸成する必要があります。そのための第一歩として、2021年6月に社内において、業界をリードする全社的な意識向上・啓発キャンペーン「ペイシェント・セントリシティ月間」を実施しました。

このキャンペーンでは、創薬、開発、供給などに携わる各分野のリーダーたちが集まり、患者さんの視点に立つことの重要性や、患者さんの声をどのように業務に取り入れているのかを活発に議論しました。さらに患者団体を含む外部のステークホルダーからも様々な考えや想いを共有いただき、アステラスの全社員が「製薬企業の仕事は、全て患者さんのためにある」ことを改めて認識する機会となりました。

 

ペイシェント・セントリシティを意識した医薬品開発の実現

ペイシェント・セントリシティを意識した医薬品開発の実現

ペイシェント・セントリシティの文化を醸成するために必要な体制や能力を獲得するために、アステラスは、患者さんの視点を取り入れた医薬品開発(PFMD:Patient Focused Medicines Development)に注力しています。また、アステラスでは、この取り組みをより意義あるものにするために、D(Delivery/供給)を付け加えPFMD+Dと定義しています。PFMDを実現するためには、全ての業務基盤と能力にその考えを取り入れることが重要となりますが、そこにDelivery(供給)を追加しないと、患者さんは製薬企業と開発段階でしか関わることができず、投薬段階では関与できません。これでは患者さんが実際に直面している課題を理解し対応する機会を失うこととなり、治療とケアのバランスが取れないと考えました。
アステラスは、医薬品の開発が完了した後もペイシェント・セントリシティの活動を継続することで、治療とケアのバランスを取るように努めています。新薬を生み出し認可を受けた後も、患者さんのケアに注力しなければなりません。
アンソニー・ヤニは、「患者さんの投薬中の行動と、それに伴う症状にも向き合う必要があります。それこそが、第2のD(Delivery/供給)の意味です」と語ります。

ペイシェント・セントリシティの実現に向けた高度な専門的アプローチ

アステラスでは、5つの重点分野に分かれた専門性の高いチームをグローバルに配置し、チーム個々の目標を達成するとともに、それぞれの強みを組み合わせることでペイシェント・セントリシティのビジョンを実現しています。

ペイシェントパートナーシップス

ダグ・ノーランド

ダグ・ノーランド :私たちは、患者さんや介護者、患者団体とともに、健全でコンプライアンスに準拠した対話を促進できる関係性を築き、そのための仕組みを整えることに注力しています。患者さんとの対話を通じて得られた有意義な洞察は、臨床試験、患者さん自身の治療への評価や症状に関する報告、患者さんへの医薬品供給計画など、あらゆる業務の設計と実行に反映されます。研究開発のごく初期の段階から患者さんと密接に関わることで、患者さんに最大限の価値を届けることを目指しています。また、アステラスは患者団体と協力し、患者団体による考察や研究などの能力を取り入れて、アステラスがPrimary Focusと呼ぶ、重点的に研究開発投資を行う分野における患者さんの実用面または情緒面でのニーズにお応えするために、疾患啓発・教育活動を支援しています。


メディカルインテリジェンス・ペイシェントインサイト

ジョー・コリンズ

ジョー・コリンズ:私たちは、研究と開発初期段階のプロジェクトチームを支援しています。「この薬を作ることができるか?」という従来の問いかけと「この薬を作るべきか?」という問いかけのバランスをとるために必要な考察を提供しています。患者さんのニーズと医療の価値の両方を考慮しながら、探求すべき適応症をプロジェクトチームが判断するための情報を提供し、初期投資の必要性をマネジメントが理解するためのサポートを行い、さらに研究開発やRx+®ビジネスに関する社外の潜在的なチャンスを検討しているチームを支援しています。


ペイシェントインサイト・ソリューションズ

ジョー・コリンズ:私たちのチームでは、アステラスの開発後期段階のプログラムに実践的な考察と、個別案件毎のソリューションを提案しています。実際の患者さんの視点を深く洞察し、ビッグデータ解析を活用し、患者さんに最も必要とされるソリューションの特定を支援しています。
例えば、萎縮型加齢黄斑変性チームと社内ワークショップを開催し、参加者に患者さんが普段見ている世界をVR(バーチャルリアリティ)技術を用いて体感してもらいました。このようなワークショップにより、後期開発段階のプログラムに対して、患者さんの視点を深く理解し、最適なソリューションの開発を支援することができました。

 

行動科学コンソーシアム

リサ・マトル

リサ・マトル:私たちは共感と思いやりをもって、患者さんの人生や治療経験のあらゆる側面の理解と、改善を目指しています。世界中の行動科学者と共同して、患者さん、医療従事者、介護者の行動をより深く理解することに取り組んでいます。このような洞察を通じて患者さんのより良い判断をサポートし、患者さんの生活に影響を与える要因を特定し、より包括的でユニークなアプローチで患者さんにより良いケアを届けることができます。

例えば、最近私たちは膀胱がんチームと協力し、さまざまな国の進行性膀胱がんの患者さんが、治療を継続するか、または緩和ケアへ移行するかをどのように決断するのかを洞察しました。患者さんの決断に影響を与える心理的、文化的、構造的、疫学的な要因を調査し、根拠となるデータをもとに、どのように医療従事者、患者さんと介護者をサポートすれば患者さんの希望に沿った意思決定プロセスが行えるかについて、膀胱がんチームに提案しました。


ストラテジー&インテグレーション

タイラー・マーシニアック

タイラー・マーシニアック:アステラスは大切なパートナーである患者さんのケアに取り組むために全社的にグローバルレベルで協働し、組織構造、能力開発、プロセスの構築に邁進しています。私たちストラテジー&インテグレーション・チームは、上記4つのチームが生み出した考察、分析、ソリューションをより広範に他の組織に浸透させるために活動しています。私たちは、研究、開発、供給の全ての段階において社内の他部門と協働し、根拠となるデータに基づく意思決定と優先順位付けを行い、患者さんの価値の向上に貢献しています。

また、世界中のアステラスの各部門と協働し、ペイシェント・セントリシティの文化を醸成する役割も担っています。文化を醸成することで、実際の患者さんや介護者の考えを、社員一人ひとりが理解するだけでなく、研究、開発、そして供給の各段階における組織としての意思決定に取り入れられるようになります。

真にペイシェント・セントリシティを実現する医療システムを構築するための機会と能力は、一朝一夕で得られるものではありません。その実現に向けて、継続的に探究することが重要です。アンソニー・ヤニは「私のアステラスにおける、そして引いては製薬業界における中期的な目標は、研究、開発、供給の部門にとって、ペイシェント・セントリシティが、他の機能と同じように頼れる、不可欠な機能となることです」と語っています。

 

耳を傾け、深く考え、医薬品の進化に繋げる

ペイシェント・セントリシティの理論を実践することはチャレンジングであり、私たちはその強化と改善に継続的に取り組んでいます。それは行動、結果分析、考察、そして学びを繰り返すという、終わりなきサイクルです。しかし、意義のある価値をもたらすためには、立ち止まらずに行動し、進化し続けることが不可欠です。

行動こそが、ペイシェント・セントリシティを実現するための中核となるアプローチです。
「ペイシェント・セントリシティは名詞ですが、ペイシェント・センターは動詞であるべきです。情報を収集し、創薬のあり方を変えることを意味するのです」とアンソニー・ヤニは語ります。「患者さんのことを真剣に考え、患者さんに深く関わる有意義な業界で仕事をし、そしていつかは何か変化を起こしたいと思うのならば、議論ではなく、行動すべきです」

 


 

アステラスのペイシェント・セントリシティシリーズ

ペイシェント・セントリシティの新たな取り組み〜アンメットメディカルニーズに挑む社内イノベーション・チャレンジを開催

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