サイエンス
2020.12.23

失明の不安から患者さんを解放し、視力を取り戻す希望の光をもたらすために

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Primary Focus「再生と視力の維持・回復」
~第一章 Primary Focusリード~

 

現在、眼科領域における細胞医療*や遺伝子治療法の開発に取り組んでいる鈴木丈太郎。
始まりは2007年。この年から2年間、米国に留学する機会を得て、扉を叩いたのが再生医療研究のメッカであったソーク研究所でした。「そこで京都大学の山中伸弥先生のヒトiPS細胞の作製に関する論文を読み、私もiPS細胞を実際に作製してみました。最初に自分の手で作ったiPS細胞を顕微鏡で見たときの驚きと喜びをいまだに鮮明に覚えています。そこから多能性幹細胞の基礎研究に没頭していきました。」と鈴木は振り返ります。

 

 


 

最先端の創薬研究機会の探索

「帰国後は抗体医薬の研究を行っていましたが、2012年にある転機が訪れました。アステラスの研究本部で『疾患フロンティア研究』という活動が始まったのです。その活動を担う新しい研究室は、アステラスが定めた重点研究疾患領域を飛び出して,アンメットメディカルニーズを満たすことのできる新たな創薬の機会を探索することを使命としていました。当時、アステラスは臓器移植や泌尿器といった特定の疾患領域にリソースを集中して研究を行なっていましたが,その狭い領域に長くとどまって創薬を継続していくことに限界を感じていました」

「疾患フロンティア研究は、患者さんや医師の目線に立ち、アンメットメディカルニーズの高い数多くの疾患に対する創薬の機会を探索する活動でした。私はそのビジョンに強く賛同し、すぐに参画を決めました。その活動を進めていくなかで強く心を惹かれたのが遺伝子治療でした」


 

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私たちにしか提供できない革新的な治療手段を実現する

「近年の医療の進歩により、眼科領域においても以前に比べて優れた治療法が開発されています。しかし、『視力を取り戻す』という観点では、治療効果は不十分で、そもそも治療法がない疾患も多くあります。さらには、社会の成熟に伴って高齢化が進み、視力が低下する高齢者も増えてきています。人が外界を感知するのに必要な五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)のうち、視覚は特に重要な感覚であることは疑いがありません。そのため、失明によってQOL(Quality of life:生活の質)を大きく損なう原因となる眼科疾患に対する治療法には高いニーズがあります。しかし、視覚に重要な機能を果たす細胞が傷害されて起こる視力の低下を回復することは容易ではありません」

「私たちは、『細胞医療』と『遺伝子治療』という次世代のモダリティと、『再生』というバイオロジーを組み合わせて、失明を引き起こしてしまう疾患に対する新たな治療薬を生み出すことを目指しています。眼科領域における取り組みを通して、アステラス独自の価値を届けられる存在であることを示していきたいと考えています。重い眼科疾患に苦しむ患者さんに対して、失明の恐れからの解放と視力の回復への希望を提供する――。アステラスにしか提供できないような最先端の治療手段を実現することで、世界中から信頼される企業となることを目指します」

 

Primary Focus「再生と視力の維持・回復」
~第二章 プログラム~

 

第二章 プログラム 画像


未知なる技術領域、細胞医療と遺伝子治療への挑戦

アステラスはFocus Areaアプローチの考え方に基づいて選定したPrimary Focusに重点的に研究開発投資を行い、革新的な治療法の研究開発に取り組んでいます。その取り組みの一つとして、Primary Focus「再生と視力の維持・回復」のプロジェクトを進めています(Primary Focusの詳細は、「Focus Areaアプローチ~最先端の科学を患者さんの価値へ」ページにてご確認ください)。

Primary Focus「再生と視力の維持・回復」では、細胞医療と遺伝子治療といった次世代のモダリティと再生というバイオロジーを同時に組み合わせて、失明に至る可能性がある疾患に対する新たな治療薬を生み出すことを目指しています。

未知なる技術領域、細胞医療や遺伝子治療への挑戦にあたっては、様々なハードルがありました。例えば、遺伝子治療薬の生産の難しさです。全身に投与するためには、大量の遺伝子治療薬を製造する能力が必要となります。しかし、眼への局所投与であれば非常に少ない量で済みます。他には、拒絶反応の課題があります。細胞や遺伝子治療薬は私たち人間にとっては異物ですから、投与すると拒絶反応が起こる可能性があるのです。その点で、眼はもともと拒絶反応が起きづらい臓器でした。このように様々な観点から分析を行い、細胞医療や遺伝子治療への新たな挑戦の場として眼科領域を選びました。

その後、ハーバード・メディカルスクールやクリノ社といった遺伝子治療研究のパートナーとの共同研究の立ち上げ、さらに眼科領域の細胞医療に世界に先駆けて取り組んでいたオカタ社の買収など、研究開発に必要なパズルのピースが急速に揃っていきました。

 

加齢黄斑変性、緑内障、網膜色素変性症をターゲットとしたプログラム

現在取り組んでいるプログラムでは、主に加齢黄斑変性、緑内障、網膜色素変性症をターゲットとしています。これらの疾患に対する治療薬はいまだ存在していないか、すでに承認され使用されているものの、効果は限定的なものにとどまっています。

 

主なプログラム

 


ここで、細胞医療と遺伝子治療の代表的な2つのプログラムを紹介します。いずれも失われた視覚を再び獲得できる可能性を持ったプログラムです。

一つはアステラスの再生医療や細胞医療の研究開発の拠点であるAIRM(Astellas Institute for Regenerative Medicine)によって生み出された網膜色素上皮細胞プログラムASP7317です。加齢黄斑変性症などで失われる網膜色素上皮細胞を、多能性幹細胞から作製した新しい細胞で置き換えることにより、視力の維持・回復を目指しています。

もう一つはオプトジェネティクス(光遺伝学)技術を組み込んだアデノ随伴ウイルス遺伝子治療プログラムASP1361です。光に応答して細胞を活性化する遺伝子を細胞に組み込むことで、通常は光を感じることのない網膜の神経細胞を利用して視力を取り戻すことができます。

これらのリードプログラムを開発する中で必要な専門性を構築し、次々に革新的な後続プログラムを生み出していく戦略を描いています。細胞医療は従来の低分子化合物やバイオ医薬品と異なり、その多機能を活かして幅広い疾患を治療できる可能性があるのが特徴です。しかし、生きた細胞であることから、研究開発そして生産には独特のノウハウが必要です。2030年ごろには多機能幹細胞から製造された製品が普及し、さらには遺伝子編集技術を組み合わせた次世代細胞製品の開発が進み、細胞医療によるビジネスモデルが確立すると考えています。アステラスでは、眼科領域で細胞医療の経験を積み、将来的には細胞医療と遺伝子編集技術を組み合わせることにより、眼科領域に続いて他の領域においても次世代型の高機能細胞の創出に取り組む計画です。


 

免疫拒絶反応が少ない細胞医療の実現へ

細胞や臓器が患者さんに移植された場合、私たち人間が持つ免疫反応によって、移植された細胞や臓器が拒絶され、体内から排除されることがあります。こうした免疫反応を抑えるために、これまでは強力な免疫抑制剤が使われてきました。アステラスはこれまでに、プログラフ®という拒絶反応を抑制する優れた薬剤を研究開発し、社内には移植に関する多くのノウハウが蓄積されています。

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2018年、アステラスグループの一員となったユニバーサルセルズ(Universal Cells)社は、多能性幹細胞を用いた独自のユニバーサルドナー細胞技術を有しています。ユニバーサルドナー細胞技術を導入した多能性幹細胞を用いることにより、免疫拒絶反応が少ない細胞医療を実現することを目指しています。免疫拒絶反応を誘導するヒト白血球型抗原(HLA)を適合させる必要もないと考えています。こうして移植医療における最大のハードルをクリアし、より多くの患者さんに高い安全性と有効性を持つ細胞医療を届けるために、私たちはさらに挑戦を続けていきます。

*細胞医療:ヒトの細胞自体を注射あるいは移植することで、生体機能の回復をめざす治療のこと。細胞の持つ多機能な特性を活かし、既存の薬物療法では実現できない、高い治療効果が期待されている。


 


 

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