男性ホルモンは第2次性徴に関わり、筋肉の増強、精子の産生や男性機能に深く関係する重要なホルモンです1)前立腺は男性ホルモンと関わりの深い臓器で、男性ホルモンがなければ、前立腺は発育できず、機能することもできません。前立腺の細胞が異常増殖して発生する前立腺がんも同様に、男性ホルモンの影響を強く受けています1)
男性ホルモンにはいくつかの種類がありますが、総称して「アンドロゲン」と呼びます。アンドロゲンは、95%が精巣(睾丸)で、5%が副腎(*)で作られています2)。 

*副腎:左右の腎臓の上部にくっついて存在しており、その構造は外側の副腎皮質と内側の副腎髄質に分けられます。副腎皮質では性ホルモンのアンドロゲンの他、抗炎症作用などのさまざまな作用を持つコルチゾールや電解質や体液量、血圧の調整を行うアルドステロンが合成・分泌されます。副腎髄質では、交感神経の興奮に関わるアドレナリンなどが分泌されます3)

1)市川智彦ほか. 前立腺癌のすべて(第4版), メジカルビュー社, p.60-61, 2019.
2)村井 勝. 前立腺癌診療Q&A, メジカルビュー社, p.98-101, 2003.
3)大野 勲ほか. やさしい臨床医学テキスト(第4版), 薬事日報社, p.335, 2018.

男性ホルモンの種類

 

 

 

精巣(睾丸)で作られているのはほとんどが「テストステロン」というホルモンです。副腎ではデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)をはじめ、いくつかのホルモンが作られており、これらをまとめて「副腎性アンドロゲン」と呼びます1)

1)市川智彦ほか. 前立腺癌のすべて(第4版), メジカルビュー社, p.294-295, 2019.

男性ホルモン分泌のしくみ

男性ホルモンが分泌される時のメカニズムは、次のようになっています1)
男性ホルモンの分泌は、脳からの指令で調節されています。
脳の視床下部から「GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)」が分泌され、脳の下垂体に働きかけることにより、下垂体から「LH(黄体化ホルモン)」というホルモンが分泌されます。これが精巣(睾丸)に働きかけて、男性ホルモン(テストステロン)が分泌されます。
一方、脳の視床下部から「CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)」が分泌され、脳の下垂体に働きかけることにより、下垂体から「ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)」というホルモンが分泌されます。これが副腎に働きかけて男性ホルモンが分泌されます。近年、精巣(睾丸)由来の男性ホルモンを除去する目的で外科的去勢を行った後も、副腎由来の男性ホルモンが前立腺を刺激し続け、前立腺がんを成長させるといわれており、副腎由来の男性ホルモンをブロックする治療が行われることもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1)吉田 修ほか. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん(改訂版), 医薬ジャーナル社, p.90-91, 93-97, 2013.

前立腺がんの精巣(睾丸)摘出による治療

前立腺がんは男性ホルモンによって成長します1)。このため、男性ホルモンを分泌している精巣(睾丸)を取り除く治療法が有効です。
しかし、手術で精巣(睾丸)を取り除く方法は、最も安価で永続性のある確実な方法ですが、患者さんによっては精巣(睾丸)を取り除くことによる肉体的・精神的苦痛が問題となります1)。そのため、お薬を使ったホルモン療法を選択することもあります。

1)市川智彦ほか. 前立腺癌のすべて(第4版), メジカルビュー社, p. 294-299, 2019.

ホルモン療法で使われる薬

テストステロンの分泌を抑える薬【GnRH(LH-RH)アナログ製剤】
精巣(睾丸)摘出手術と同等の効果が得られる薬がGnRHアナログ製剤という注射薬です1)。「アナログ」とは、“類似した化合物”という意味です。

1)村井 勝. 前立腺癌診療Q&A, メジカルビュー社, p.96-98, 2003.

GnRHアゴニスト製剤
GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)と同じ働きをしますが、男性ホルモンの分泌を抑える効果をもっています1)

1)吉田 修ほか. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん(改訂版), 医薬ジャーナル社, p. 93-95, 2013.

GnRHアンタゴニスト製剤
脳の視床下部から出たGnRHが下垂体に作用するところを抑えます1)

1)吉田 修ほか. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん(改訂版), 医薬ジャーナル社, p.98, 2013.

男性ホルモンが前立腺に作用するのを妨げる薬【抗アンドロゲン剤】
精巣(睾丸)や副腎で作られたアンドロゲンは、前立腺の中で「ジヒドロテストステロン」という物質に変わります。このジヒドロテストステロンは、前立腺にあるアンドロゲン受容体と結合してがん細胞に働きかけ、がんを増殖させます。このジヒドロテストステロンとアンドロゲン受容体の結合をブロックするのが、抗アンドロゲン剤です。抗アンドロゲン剤は、精巣(睾丸)だけでなく副腎で作られたアンドロゲンの働きも同時に抑えることができる内服薬です1)

吉田 修ほか. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん(改訂版), 医薬ジャーナル社, p. 90-91, 2013より改変.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


現在は、ジヒドロテストステロン(DHT)がアンドロゲン受容体に結合するのを阻害し、さらにその後の細胞増殖を促進するシグナル伝達も併せて阻害する作用をもつ薬剤も発売されています2)

1)吉田 修ほか. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん(改訂版), 医薬ジャーナル社, p. 90-91, 93-97, 2013.
2)市川智彦ほか. 前立腺癌のすべて(第4版), メジカルビュー社, p. 325-327, 2019.

アンドロゲン合成酵素阻害剤
精巣(睾丸)、副腎および前立腺がん組織においてアンドロゲンの合成を阻害する薬剤です1)

1)市川智彦ほか. 前立腺癌のすべて(第4版), メジカルビュー社, p. 325-327, 2019.

化学療法で使われる薬【抗がん剤】
去勢抵抗性前立腺がん(ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん)に有効な抗がん剤として、タキサン系注射薬の有用性が証明されています1)

1)市川智彦ほか. 前立腺癌のすべて(第4版), メジカルビュー社, p. 328-329, 2019.

骨転移の治療に使われる薬
骨転移の部位を治療する薬です。骨転移に対する治療は、ホルモン療法を中心として行いながら、ビスホスホネート製剤などの骨を壊す働きを抑えたり、骨への転移が多く痛みがある場合は、ストロンチウム製剤やラジウム製剤などを補助薬として使用します1)

1)日本泌尿器科学会. 前立腺癌診療ガイドライン 2016年版, メディカルレビュー社, p.246-249, 2016.