
私たちの研究活動
プロテインデグレーダーは、つくば研究センターを拠点に、Primary Focus「標的タンパク質分解誘導」*における創薬研究パートを担っています。私たちの目標は、長い間「アンドラッガブル」(創薬の対象とすることが不可能)と考えられてきた「異常タンパク質に依存したがん」を治療可能な新薬を創出することです。この挑戦的な目標を達成するために、ベンチャーマインドにあふれるパートナーとの協働も強化しながら、研究活動に取り組んでいます。
*Primary Focus「標的タンパク質分解誘導」についてはこちらのページをご覧ください。
アプローチ

我々は従来の技術では創薬標的にすることが難しかった「異常タンパク質に依存したがん」を標的とできる、Targeted Protein Degradation (標的タンパク質分解誘導)技術を応用した創薬アプローチに注力しています。この技術を活用して、これまで有効な治療法がなかった患者さんに治療薬を届けるために、単剤および併用により高い治療効果を発揮する新薬の開発に取り組んでいます。
Targeted Protein Degradation
Targeted Protein Degradation(TPD)は本来生体内に備わるタンパク質分解機構を利用して、標的タンパク質の機能を阻害する新しい創薬アプローチです。代表的なものとして、ユビキチン・プロテアソーム(UPS)系を利用した、標的タンパク質分解誘導キメラ分子PROteolysis TArgeting Chimeras (PROTACs)が知られています。この技術ではケミカル化合物によって、薬物の標的となるタンパク質を人為的にE3ユビキチンリガーゼ等に近接させ、ポリユビキチン化を促します。これにより標的タンパク質がプロテアソームを介した分解へと誘導されます。
従来の分子標的薬は主に特異的なリガンドを持つタンパク質を標的とし、このリガンドに類似した構造の低分子化合物でその機能の活性化や阻害を行うものでした。しかしながら、標的としたいタンパク質の中にはこのような明確なリガンド結合部位を持っていないものもあります。その場合従来の方法では創薬の標的とすることは難しく、「アンドラッガブル」な創薬標的とされてきました。TPDはE3リガーゼ等と標的タンパク質を近接させる際に、必ずしも深いリガンド結合ポケットを必要としないため、これまで創薬の標的とすることが難しかったタンパク質を標的とすることが可能です。また、分子標的薬は一般的にタンパク質の酵素活性を阻害するのに対し、TPDは標的タンパク質自体を分解することで、たんぱく質の持つ酵素活性に加え、たんぱく質がもつ足場機能などの、非酵素活性も同時に阻害できるため、分子標的薬と比べて優れた薬効を示すことが期待されます。

ASP3082
私たちはTPDの アプローチを応用し、選択的KRAS G12D分解剤であるASP3082を見出し、世界で初めて臨床試験に供しました。現在ASP3082は米国にて第Ⅰ相臨床試験が行われています。KRAS G12D変異を有する膵臓がんや大腸がん、肺がん等の患者さんに対する新しい治療手段を提供することを目指し、有効性および安全性の確認を進めています。
ASP3082の紹介動画(英語)
チーム

部門長
博士(薬学)
早川 昌彦
入社後、メディシナルケミストとしてがん・泌尿器等の低分子創薬を担い、複数の上市品、臨床開発品の創出に貢献。2012年より、研究企画部門で、研究本部の実行計画策定等に従事。2018年モダリティ戦略室長。2019年より現職。
私たちの目標は、これまでの低分子では狙うことが難しかった創薬標的に対する新しいアプローチであるTPDを活用することで、患者さんに新しい治療の選択肢を提供することです。がん、あるいは他の疾患で苦しまれている患者さん、およびそのご家族の人生を良い方向に変えられるよう、研究を進めて参ります。
学会発表*
- Presentation Title: Novel KRAS G12D degrader ASP3082 demonstrates in vivo dose-dependent KRAS degradation, KRAS pathway inhibition and anti-tumor efficacy in multiple KRAS G12D mutated cancer models
Abstract 5735: Novel KRAS G12D degrader ASP3082 demonstrates in vivo, dose-dependent KRAS degradation, KRAS pathway inhibition, and antitumor efficacy in multiple KRAS G12D-mutated cancer models | Cancer Research | American Association for Cancer Research (aacrjournals.org)
AACR ANNUAL MEETING 2023
April 14-19, 2023
Orange County Convention Center
Orlando, Florida
- Presentation Title: ASP3082, a First-in-class novel KRAS G12D degrader, exhibits remarkable anti-tumor activity in KRAS G12D mutated cancer models
EORTC-NCI-AACR MOLECULAR TARGETS AND CANCER THERAPEUTICS SYMPOSIUM
October 26-28, 2022
Barcelona International Convention Centre (CCIB)
Barcelona, Spain
*規制当局による承認前の化合物に関する情報が含まれています。
メディア掲載
- Targeted protein degradation: turning undruggable targets into druggable targets, Drug Target Review, 2023年7月6日掲載
- Novel cancer-drug strategy could hit notorious proteins, Nature(記事広告), 2023年3月9日掲載
- Beyond Biotech podcast 33: Astellas Pharma, Innovation Agency Lithuania, 4basebio, Labiotech, 2023年2月10日掲載
- The KRAS crowd targets its next cancer mutations, nature reviews drug discovery, 2023年1月23日掲載
- Biotech in Asia: looking forward to 2023, Labiotech, 2023年1月11日掲載
パートナーシップ
私たちはアステラスが有するTPDの技術を拡大し、ポートフォリオをさらに強化する為、以下の領域においてバイオテックやアカデミアとのパートナリング活動を行っています。
- 新しいタンパク質分解の技術
- TPDのアプローチが有効な創薬標的(がん、およびがん以外)の探索
- 「アンドラッガブル」(創薬の対象とすることが不可能)なタンパク質に結合する化合物を獲得する技術
採用情報
TPDの技術を通して患者さんへ新しい価値を提供していくことに興味が有る方と是非とも一緒に仕事をしていきたいと考えています。応募に興味がございましたら下記までお問い合わせください。