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イノベーション × ヒト

【対談】変化を先取りし、主体性を持って挑戦し続ける

宇宙飛行士 山崎直子氏
アステラス製薬代表取締役社長CEO 畑中好彦氏

約37兆の細胞からなる人体は小さな宇宙といわれる。その神秘を解明しつつ、革新的新薬を創出するという困難に挑むアステラス製薬の畑中好彦社長。11年間にわたる訓練を経て念願の宇宙飛行を成し遂げた山崎直子さん。2人が、それぞれの「宇宙」への挑戦について語り合った。

遠くの地平見つめ前進する

山崎: 宇宙飛行には厳しいトレーニングが必要な上、様々なリスクがあります。それでもなぜ人は宇宙に挑戦するのか。それは、長期的な視点からみた大きな目標があるからです。私が行ったのは比較的地球に近い国際宇宙ステーション(ISS)ですが、宇宙開発はその先、月への再到達や火星など、より遠くを目指しています。将来的には多くの人類が宇宙でも生活できるようにという大きな目標があり、一つひとつのミッションはそのための積み重ねです。

畑中: 人体もまた小さな宇宙といわれます。そこに挑む私たちの経営理念は、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」こと。当社は一般用医薬品や後発医薬品を追わず、新薬を核としたビジネスを展開しています。まだ満たされていない医療ニーズを満たすため「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える」をビジョンとし、革新的新薬を生み出す努力を日々続けています。

山崎: 新薬の研究開発はとても難事業だそうですね。新薬が製品化される確率が2万~3万分の1と知って驚きました。

畑中: そうですね。さらに研究開発期間も長く、シーズを見つけてから患者さんに使われるまで9~17年かかるといわれています。長期間リスクをとり続けねばならないことも、私たちにとってのチャレンジです。

山崎: 私も宇宙飛行士として飛び立つまでに11年かかりました。その道のりも決して予定通りではなく、事故があったり、計画が変更になったりなど山や谷がありました。目の前ばかり見ていると自分を見失いがちになりますが、遠くの地平を見つめて進めば、いずれは目標に到達すると考えていました。

畑中: 新薬の研究開発においても、計画の変更や、思ったような作用が出ないといったことがあります。逆に予想外の作用が別の病気の薬へとつながることもあります。そんなときも私たちの最終的な目標である「どうすれば患者さんのためになるか」を見失わなければ、フレキシブルに対応し、前に進めます。

多様な力により革新を生む

山崎: プロジェクトがそのまま製品化に至るとは限らないにも関わらず、社員の皆さんが長期に渡り尽力されていることに感銘を受けました。

畑中: ありがとうございます。長い期間であると同時に多くの人が関わります。決して1人の天才が創薬を成し遂げるのではなく、研究者はもちろん、開発、製造、販売など様々な分野の専門家が力を合わせています。当社の従業員は1万7千人強、その約59%が海外で従事しており、国籍、性別、人種など実に多様な人々が多彩なアイデアを出し合い、創薬に貢献しています。

山崎: 様々な属性の人たちが、多様なアイデアや個々の強みを持ち寄って共同でミッションを達成することは宇宙飛行においても重視されている点です。NASAではNOLSという野外訓練が実施されており、宇宙飛行士だけでなく、ビジネスパーソンや学生など多種多様なメンバーが参加します。私たちのときはロッキー山脈を10日間かけて踏破しました。もちろん、小さな地球といわれるISSでは各国の宇宙飛行士との協調が欠かせません。

畑中: 個人の持つ能力も大事ですが、同時に他人との触発の中で新しいモノを作り出そうという意識も必要です。そのためには個人としてアンテナの感度を高くしていることと、質の高いネットワークを広く持つこと。一人ひとりがこの両方を兼ね備えれば、組織自体も非常に強靭になると思います。ISSでは宇宙船内だけでなく、地上との連携体制も充実していたようですね。

山崎: おっしゃるとおりです。24時間体勢で、研究者や技術者だけでなく、国際間の調整のための法律家や社会学者、あるいは心理面を支えるカウンセラー、宇宙食を担当する管理栄養士など本当に多様な方々と仕事をさせていただきました。

畑中: 私たちは社内に研究、開発、製造、マーケティング、これらを支える信頼性保証、スタッフ部門など、バリューチェーンに関わる様々な専門家を集めた部門横断的な仕組みを持ち、領域戦略を立案・実行しながら自社の強みを生かすと共に、新たな連携も模索しています。当社はイノベーションを創出するために、売上高の17%以上を目安に研究開発費を投じて自社の強みを磨きつつ、Best Science、Best Talent、Best Placeをコンセプトにネットワーク型研究体制を構築し、世界中のアカデミアやバイオベンチャー、他の製薬会社などと密接にコラボレーションしながら新しい薬を生み出しています。
一例を挙げると、細胞医療アプローチによって眼科領域での新たなステップを進めるため、細胞医療に関する基盤技術と臨床開発に強みがあるOcata社を買収しました。連携においては自社のメリットを追求するだけでなく、我々がパートナーに対して何を与えられるのか、またその先の患者さんや社会に対し何が貢献できるのか、それを考えながら行動することが必要です。

主体性を持ち挑戦し続ける

山崎: お互いの立場に立ち、自分に何ができるのかを考えるのはとても重要ですね。NOLSでは、毎日リーダーを交代します。すると意外な人にリーダーの資質があったり、自分にも新しい可能性を発見したり、役割を変えることでお互いや自分自身のことを深く理解できるようになりました。また、リーダーだけでなくフォロワーも最終目標を意識し、それを達成するために自分に何ができるのかを考え、必要な情報をリーダーに上げ、意見を述べる。すなわち、オーナーシップを持って行動することが大事であることを学びました。

畑中: 私たちが大切にしている価値観に「変化を先取りし、主体性を持って、常に挑戦し続けよう」というものがあります。自分を歯車だと思うのではなく、オーナーシップを持ちながら役割を担うことで、事業や研究を推進し、成果を生み出すことができます。そして、「患者さんのために」という最終的な目標の中で自分は何に貢献できるのかを見出すことができます。このように客観的に自分を見つめ直すことで、マネジメントの意思決定を深く理解できるようにもなります。

山崎: そうですね。フォロワーもただ従うだけでなく、リーダーに必要な情報を上げ、意見が異なるときは何が最善か議論した上で、皆が納得する意思決定をする。私がNOLSで訓練していたとき、最終2日を残したところでハリケーンの接近という事態に直面しました。避難か、訓練の続行か、グループの意見は半々に分かれ、徹底した議論の末、その日のリーダーと本部が話し合い、2日の行程を1日に縮め、夜通し歩いてゴールし避難することにしました。結果的には良い判断だったのですが、こういった仕組みは、シナリオからはずれた想定外のときこそ威力を発揮します。

畑中: 変化に対応する仕組み作りが組織を強くするのですね。

山崎: 先ほど畑中社長が「客観的に自分を見つめ直す」とおっしゃっていましたが、宇宙開発も同様です。「地球を宇宙から客観的に見つめ直す」、そのことで有限のリソースを有効に活用しながらより良い未来を選択していく、それが宇宙開発の一つの姿だと思います。

畑中: 以前山崎さんの講演を聞いたとき「ワンダフル」という言葉の語源について、「ワンダー(未知)」なことが「フル(たくさんある)」ので「素晴らしい」とお話されていました。私たちも毎日が驚きにあふれた生命の神秘への挑戦です。私たちは変化し続けることで生き残っていく会社であり、新しいことへの挑戦を楽しんでいます。創薬はいまや薬学、医学、生物学、工学、情報工学などあらゆる知見の集積です。再生医療や遺伝子治療など科学は進歩を続け、今まで創薬の手法がないと思われていたところにも新たな一歩が刻まれています。
私たちは今後50年、100年と病気と闘う患者さんに希望を届けるために挑戦し続け、次の世代が希望を持てる社会に貢献していきたいと思っています。これからもアステラスは、常に自分たちが変化し続けながら、変わらないゴールを追いかけていきます。

掲載日 : 2016年9月中旬
掲載紙 : 日本経済新聞朝刊

宇宙飛行士
山崎直子

1957年生まれ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)入団後、2001年、ISSの宇宙飛行士に認定された。10年、米スペースシャトルで宇宙へ向かい、ISS組立補給ミッションなどに従事。

アステラス製薬代表取締役社長CEO
畑中好彦

1958年生まれ。
一橋大学卒業後、80年に藤沢薬品工業に入社。アステラス製薬経営企画部長、米国子会社社長などを経て、2011年から現職。

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