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イノベーション × ヒト

【対談】イノベーション創出への挑戦

アクセンチュア取締役会長 程近智氏
アステラス製薬上席執行役員 経営戦略担当 安川健司氏

世界の医療環境が大きな変化を遂げる中、発足10年を経たアステラス製薬は新たなビジョンを掲げ、次のステージに臨もうとしている。「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えて届ける」というビジョンに向け、同社はどのような戦略を立て、どう実行していくのか。アステラス製薬上席執行役員経営戦略担当(CSTO)の安川健司氏とアクセンチュア会長の程近智氏が語り合った。

新たな事業機会への挑戦

程 : ちょうど10年前、アステラス製薬は発足しました。以降、新薬ビジネスに特化する独自の戦略により製薬業界で確固たる存在感を示しています。そして今年、御社は新しい経営ビジョン、経営計画を掲げていますね。

安川: 当社は発足当時からイノベーションをベースとした新薬ビジネスに経営資源を集中し、高い研究開発力を基に新薬創出に取り組んできました。特に「泌尿器」「免疫科学」「がん」など複数領域において、「アンメットニーズ(未充足の医療ニーズ)」の高い疾患に対して、革新的価値のある医薬品を創出し患者さんの元へ届けることにより競争優位を確立する「グローバル・カテゴリー・リーダー(GCL)」というビジネスモデルを追求してきました。
ただ科学の進歩、そして医療環境の変化は急速です。その変化を先読みし、機会に変え、これからも継続して世界に先駆けて新薬を患者さんに届ける必要があります。それをビジョンとして言葉にしたものが「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えて届ける」です。

程 : 製薬会社には、今まで世になかった新しい薬をつくり、人々の健康に貢献するという夢と、切実に薬を必要とする人たちに役立つものを提供するという使命感の両方があると思います。それはある意味うらやましくも感じられるのですが、その重責も想像に難くありません。一方、全く新しい薬や未知の医療領域への挑戦など、常にイノベーションの期待に満ちたエキサイティングな業界でもありますね。

安川: 新たな経営計画の中でも、イノベーションの創出に拘るという方針は変えず、さらに強化・加速していこうと謳っています。そして従来のビジネスモデルであるGCLを進化させ、一歩踏み出して多面的な視点で新たな事業機会を見出すことを基本方針としています。GCLは非常に明確なコンセプトですが、社員にはそれを越え、夢や自由な発想を持って未知の領域に挑んでもらいたいと望んでいます。

程 : そういった挑戦が新たなイノベーションを生む力にもなると思います。ビジョンを現実とするための具体的な戦略はどうでしょう。

イノベーションの創出を追求

安川: 日進月歩で進化する科学、また社会の変化の中で患者さんに最大の価値を提供するには、ビジョンを支える戦略もまた迅速に進めねばなりません。その実現のために「製品価値の最大化」「Operational Excellenceの追求」と並び、「イノベーションの創出」という目標を定めています。

程 : 具体的にはどのように進められるのですか。

安川: まず「製品価値の最大化」においては、「泌尿器」「移植」「がん」領域などにおける新製品群により中長期的な成長をけん引し収益基盤を磐石にするとともに、将来に向けたイノベーションへの選択投資余力を生み出し、バランスの取れた成長の継続を目指します。さらに目まぐるしく変化する環境にしなやかに対応できる事業運営基盤を整備・強化するために、オペレーションの一層の高質化・効率化に取り組む「Operational Excellenceの追求」を徹底します。

程 : そして「イノベーションの創出」ですね。イノベーションを生む方法はいろいろあります。自社の研究開発力を強化する、あるいは外部とのコラボレーション、または買収など。御社の取り組み方はどのようなものですか。

安川: 「イノベーションの創出」には未来にどのようなニーズがあるかを多面的に捉える力が重要です。例えば様々な感染症が克服される中、生活習慣病が人類の新たな問題になるような社会環境の変化や、再生医療のような科学的なブレークスルーによって、医療ニーズは時代により変化していきました。そのため当社は視界を広げ、「新薬創出力の強化」と「新たな機会への挑戦」の両面からの取り組みを進めています。「新薬創出力の強化」では自前主義に拘らずネットワーク型研究体制の下、世界最先端のサイエンス(BestScience)に基づいて、社内外を問わず最適な人材・研究者(Best Talent)を登用し、最適な環境(Best Place)で研究活動を機動的に展開する「3B戦略」を進めています。例えば「がん」への取り組みとして既知の治療法とは異なる次世代がん免疫療法の確立を目指し、当該分野において輝かしい実績を持つ科学者、経営陣、ベンチャーキャピタルが創設、指揮するPotenzaTherapeutics社と提携し研究開発を進めています。「新たな機会への挑戦」では新疾患領域や新技術・新治療手段などの新たな機会に積極的に挑戦し、新薬ビジネスで培った技術や強みを活かした医療ソリューションの検討も進めています。例えば「筋疾患」への取り組みとして、骨格筋活性化剤という極めて新規で革新的な作用機序を持つ薬剤の研究開発に実績のあるCytokinetics社との提携により脊髄性筋萎縮症に挑戦することや、「免疫科学」に関してImmunomicTherapeutics社が有する次世代型ワクチン技術を用いて、国民病ともいえるスギ花粉症に対して有効な製品の開発を進めています。先月11月19日(米国東部)には細胞医療アプローチにより眼科領域での新たなステップを進めるためにOcata社の株式に対する公開買い付けを開始しました。様々な革新的イノベーションを取り込むことで、いまだ多く存在するアンメットニーズを一つひとつ満たしていきたいと考えています。

程 : 様々な分野での提携を実現するためには実際に足を運ぶことも必要ですし、相手の事業内容を見極める「目利き力」も問われますね。

安川: 以前からライセンスや提携を担当する部署はあったのですが、さらに領域ごとに研究から開発、営業までをカバーできる「STAR」という専門チームを作りました。彼らには、社外のアセットの調査や、効果的な提携先の発見を使命の一つにしています。さらに大学やベンチャーなど、臨床段階の手前にあるアセットを見つける別チームも活動を開始しています。

程 : やはり対象は世界中の大学やベンチャーなどにも及ぶのでしょうか。

安川: そのとおりです。年間に1000以上の案件を評価にかけています。同時に我々も相手にパートナーとして選ばれる力量、常に自分たちがナンバーワンだと誇れる基礎技術が必要です。そのような技術があればこそ革新的イノベーションの創出という理想のケミストリーが実現するのです。

社会から選ばれる企業として

程 : 「選ばれる」というお話がありましたが、自社の研究開発力というコアコンピタンスを、より強化する必要があるということですね。私たちはIT経営や情報インフラの構築といった分野を得意としますが、データサイエンスを活用した新たなイノベーションの創出なども期待できますね。

安川: ビッグデータの活用は大きな課題と考え、7月に新しい専門組織を設立し取り組みを進めています。今後は、自分たちの専門外の領域に強みを持つ異業種とのコラボレーションも視野に入れ、筋肉質な企業体質を追求したいと思います。

程 : 当社は幅広い業種をカバーしていますので、良いケミストリーを生むお手伝いができると思います。最近はデジタル技術の進展に伴い、業界を越えたパートナーシップがめずらしくありません。目的は新規ビジネスの事業化のスピードアップであったり、規模拡大による効率化であったり様々です。M&Aの活用についてはどのようにお考えですか。

安川: 規模の拡大のみを追うようなM&Aは考えていません。目的はあくまで世界中のイノベーションと自社の強みを組み合わせることで、革新的な新薬を少しでも早く患者さんにお届けすることであり、投資や提携、M&Aなどあらゆる選択肢の中から最適な方法を選びます。新薬ビジネスは他の業界に比べ、売り上げに対する高い割合の研究開発費を必要とし、その上研究から上市に到るまでの確率が非常に低いというビジネスです。その効率をいかに上げ、新たなイノベーションを生み出せるか。そのために共通のビジョンの下、経営陣のみならず社員一人ひとりがオーナーシップを持ち、自律的に考えて行動してほしいと呼びかけています。

程 : 変化の激しい社会において、今までと同様のスタンスでは、市場から企業の存続が問題視されてしまいます。それを跳ね除けるには、ビジョンという名の決意を社員全員がしっかりと共有し、その決意が確固たる戦略に基づいて実現される様をステークホルダーに見せる必要があります。そして今後は、企業の価値を計る尺度として単純に時価総額などだけでなく、国や患者さんなど社会全体から、この企業がいかに必要とされるかという社会的評価も重要になるでしょう。

安川: 私たちは提携先だけでなく、患者さんをはじめとするすべてのステークホルダーから選ばれる存在でありたいと願っています。「世界にまだないくすりのために」という夢に向かって邁進し、より多くの方々から選んでいただくことが、企業としての持続的な成長にもつながると考えています。

掲載日 : 2015年12月15日
掲載紙 : 日本経済新聞

アクセンチュア取締役会長
程近智

1960年生まれ。
米国スタンフォード大学工学部卒業後、82年にアクセンチュアに入社。
91年に米国コロンビア大学経営大学院(MBA)卒業。
戦略グループ、通信・ハイテク本部統括パートナーを経て2006年代表取締役社長就任。
2015年から現職。

アステラス製薬上席執行役員 経営戦略担当
安川健司

1960年生まれ。
東京大学大学院農学部研究科修士課程修了後、86年に山之内製薬に入社。薬学博士。
アステラス ファーマ グローバルディベロップメントInc. Global TA Head(Urology)、アステラス製薬製品戦略部長などを経て、2012年から現職。

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