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イノベーション × ヒト

【対談】アステラスが起こすイノベーション

脳科学者 茂木健一郎氏
アステラス製薬代表取締役社長 畑中好彦氏

アステラス製薬が誕生して10年、同社は新薬ビジネスに特化する戦略で増収・増益を続けるなど、確固とした存在感を示してきた。大きな変化が予想される今後の事業環境の中、どのような成長戦略を描くのだろうか。「イノベーション」をキーワードに同社の畑中好彦社長と脳科学者の茂木健一郎氏が語り合った。

世界で戦うアステラス

茂木: 世界の中で日本の製薬会社の規模は必ずしも大きくありません。世界で戦うために経営判断としては必然であったと思いますが、異なる企業文化を持つ山之内製薬、藤沢薬品工業の合併はどのような効果を生んでいますか。

畑中: アステラスは、一般用医薬品や後発医薬品を追わず新薬に特化したビジネスを核としています。そのため絶えざるイノベーションを必要としており、十分な研究開発費を投じられる企業になることが合併の第一の目的でした。さらに、人種・国籍・性別・年齢に関係なく多様な人材が活躍できる風土を培っており、これがグローバルな市場においても革新的新薬を創出する土壌になっていると思います。従来の日本の組織が持っていた同質性の強さ、良さは否定しませんが、現代ではそれが時に弱みになることもあります。その点で、我々は、柔軟性・多様性がイノベーション創出の鍵と考えています。

茂木: グローバル経済の中での日本企業の強み、弱み、両方があると思います。
日本企業ならではの強みはどういうところにあると思われますか。

畑中: 社員一人ひとりが経営者目線でものごとが語れることは、大きな強みだと思います。例えば、我々の日本の本社でも、スペインの販社でも、オランダの研究所でも、いずれも社員が同じ言葉で同じ未来をディスカッションできる。この近さはあると思います。

茂木: いい意味での一体感があるということですね。よく聞くのは、欧米の企業だと経営者と従業員が分かれてしまっているといいます。

畑中: 役割分担がはっきりしているという強みもあるとは思います。一方我々は、どこへ行っても同じディスカッションができることから、経営者層の見えていない気付きがある。これは強みではないかと思います。

茂木: 先程、2社の強みを持ち寄り、融合させる事で化学反応を起こし、イノベーションにつなげようとしたとお話いただきましたが、組織の中に多様性があることがイノベーションにおいて非常に大切です。アステラスの中では、多様性をどのようにとらえていますか。

畑中: アステラスの行動の指針を決める5つのキーワードがあります。そのうちの一つが、日本語では多様性、我々は英語でオープンネスと呼んでいるものです。これが一般的に言われるダイバーシティー&インクルージョンです。多様な人たちの意見を聞きディスカッションをして、そこから新しいものを創りだしていこうというものです。

イノベーション創出

茂木: 新薬に特化するビジネスモデルは素晴らしいと思いますが、幅広い疾患で治療薬が製品化され、残されているのは治療が難しい疾患ばかりという状況はイノベーション創出には厳しいのではないでしょうか。

畑中: その点では我々はむしろ恵まれていると考えています。何しろ目の前にニーズがはっきりとした形であるのですから。

茂木: 私は、脳の創造性に関して「Absorptive capacity」(吸収力)に注目しています。製薬の場合は自社で研究開発に取り組んでいないと例え外部に優れたリソースがあっても、その意味が分からないし、吸収力を発揮する事もできません。

畑中: 我々は自社で経験を重ねる事で「目利き力」を鍛え「オープンイノベーション」をキーワードに社内外を問わず有能な人材・有望なサイエンスを積極的に登用することで新薬を創出しています。同時に我々の強みと医療・ヘルスケア事業の融合により、様々な医療ソリューションなどの新しい価値も患者さんに提供していきます。例えば前立腺がん治療薬のように、米国のバイオベンチャーと共同開発をした薬もあれば、日本の大学の研究者の方と協力して作り上げた薬もあります。

茂木: なるほど、冷静に自社の強み・弱みを理解した上で、必要なものを柔軟に取り入れているのですね。脳科学では、イノベーションを起こすには人とのコミュニケーションや結びつき、組織の中での人の働き方だけでなく、社会にどう受け入れられるかも重要になります。アステラスは、国や社会とのつながりをどのように考えていますか。

畑中: 今、先進各国では医療費の抑制が最重要課題の一つに挙げられています。その中で我々は製品さえ出せばいいと考えるのではなく、国や社会と一体になって医療制度の維持を考えながら、新製品へのAccessibilityや、その先にある患者さんやその家族、友人を含めた社会全体の満足度に思いを巡らせる事が必要だと考えます。

創造性を高める人・組織作りを

茂木: ペニシリン発見の物語もそうですが、画期的なイノベーションには、予想していなかった何かを掴みとる「セレンディピティ」も重要です。御社ではセレンディピティをどのように高めていますか。

畑中: 当社の事業においてもセレンディピティが成長ドライバーとなる製品化につながった例があります。社員一人ひとりの感性は「目利き力」と言い換えてもよいと思います。それには、どれだけ仮説検証を繰り返し、失敗し、学んできたか、どれだけ多くの人と議論を重ねてきたかということが重要です。それぞれの社員が、オーナーシップを発揮し、アンテナを常に高くし、価値創造につながる可能性をキャッチしてほしいと思います。

茂木: 柔らかなモノの見方はセレンディピティ、イノベーションには大切です。脳科学の立場からいうと、何かイノベーションの種があっても、それに気付かないこともあります。また、気付いてもその新しい仮説をなかなか受け入れられない場合もあります。イノベーションの種を大きく育てるために、社員に大事にしてほしい考え方や行動はありますか。

畑中: まずは「見えないほどの大きな変化を見逃すな」ということです。それは、事業に大きな影響を与える巨大市場である欧米の医療情勢や創薬最前線の研究動向、新興国の医療ニーズなど後々になって気付く潮目の変化のことです。また同時に「見逃すほどの小さなシグナルを見つけ出す」ことも必要です。研究者やMR(医薬情報担当者)が日々現場で接するデータ・知見、あるいは先生方の持っておられるニーズに、イノベーションの可能性が秘められていることを意味します。

茂木: 脳科学の観点からいえば、子どもが冒険に出て、何かを創造するのは母親という安心感があってこそ。同様にイノベーションを起こすためにも、いわば安全基地「Secure base」が必要です。御社の組織作りにおいてはどうでしょう。

畑中: Secure baseは、企業で言えば上司と部下の信頼関係がそれにあたるのではないでしょうか。マネージャーには、金曜日には部下からの悩みを聞き、家に会社の悩みを持ち帰らせないように、という話をしています。また、会社としてどこまで失敗を許容できるか、健全なリスクを取れるか、その度合いを増やすこともSecure baseを安定したものにしていくと考えています。

茂木: 同じく脳科学的にはイノベーションの創出には、集中とリラックスの波を作り出すことも重要です。その点で何か工夫されていますか。

畑中: そうですね。私自身もオフのときのひらめきを大事にしています。当社では、現状の働き方と休み方を振り返り、社員一人ひとりの充実した生活と効果的な仕事を両立することを目指して、「働き方・休み方改革」に取り組んでおり、生産性・創造性の高い人・組織づくりを図っています。

茂木: 個々の社員が生活を楽しみ、イノベーションを起こせるような仕組み作りができているのですね。

畑中: 今後も、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念の下、変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えて届けるために、「アステラス製薬らしさ」を発揮してイノベーションを創出していきます。

掲載日 : 2015年11月4日
掲載紙 : 日本経済新聞

脳科学者
茂木健一郎

東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。
理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現在に至る。
専門は脳科学、認知科学。

アステラス製薬代表取締役社長
畑中好彦

一橋大学卒業後、80年に藤沢薬品工業に入社。
アステラス製薬経営企画部長、米国子会社社長などを経て、2011年から現職。

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