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企業文化 × ヒト

【対談】多様性を束ねて力に

指揮者 西本智実氏
アステラス製薬執行役員 営業本部長 田中信朗氏

高い演奏力を備えた奏者を束ね、より高い音楽性を追求する指揮者の西本智実さんと、患者さんに価値を届けるため、医薬・薬学の知識など、高い専門性を持って活動するMR(医薬情報担当者)を束ねるアステラス製薬の田中信朗営業本部長。社会の変化に即して変化を続けながら、変わらぬ高みを目指す2人が、ダイバーシティ&インクルージョンをテーマにそれぞれの仕事について語り合った。

変化の中で本質的価値を提供

西本: コンサートの予定が決まると、その時、その社会に相応しい曲を選びたいと考えます。ところが今は世の中の動きが非常にスピーディーです。大きなコンサートになると数年後の開催まで決まっていますから、その時点ではこの曲が相応しいと思っていても、1、2年の間に世の中が変わり、別の曲にしたほうがよかったかもと思うこともあります。それでも私は、古典を通じて常に最先端のことを見つめていきたいと考えています。

田中: 急速に変化する環境 の中で、目標を達成するためにとことん考え抜き、本質的な価値を提供するのは私たちの仕事も同じです。今、医薬品業界のビジネス環境は大きく変わってきています。1つは医療提供体制の変化です。患者さんが暮らす地域で最良の医療を受けられるように医療連携が進んでおり、患者さんの流れが医療機関完結型から地域完結型にシフトしています。
また、MRのあり方も変化しています。がんのように人によって病態や治療法が多様な病気の場合、MRが個々の患者さんの状態に合わせて適切な情報を提供することが求められています。かつてのように、薬の情報を一方的に届けるだけでは通用しません。

西本: MRの方は具体的にどのような活動をされているのですか。

田中: MRはmedicalrepresentative の略で、薬の品質、有効性、安全性について情報を提供・収集・伝達することが基本的な仕事です。社内外のコラボレーションを通じたイノベーションによって生み出された新薬は、適正に使用してこそ効果が出ます。どういう症状の方に、どういうタイミングで、どう使えばいいかという情報を提供して、同時に医師や薬剤師などの方から薬に関する現場での情報をいただき、次の適正使用につなげるのがMRの仕事です。
その際に重要となるのが患者さん基点の考え方であり、どのように患者さんに貢献できるかということを念頭においた活動です。私たちの取り扱う薬と関連疾患について深く理解し、医師の治療方針や患者さんの治療状況、その地域・病院の治療の流れを把握して、患者さんを基点としたきめ細やかな情報提供を行う。それが、アステラスのMR2400人が目指す「ひとつ上のMR」です。

多様な強い「個」の集団

田中: 今、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉が注目されていますが、どのようにお考えですか。

西本: オーケストラはダイバーシティの最たるものです。さらにオペラやバレエでは、歌手やダンサー、舞台美術や照明スタッフなども加わります。リハーサルが始まるときには、各自の思い描く方向性や音楽的志向もありますが、共同で総合芸術を創っていくわけです。

田中: 専門性が高く、多様な奏者の方々が集まり、その力が相乗的に発揮されるのは非常に興味深いです。

西本: 彼らは団体で音楽を創りあげていくため、自分1人が飛びだしてはいけないと思っています。オーケストラのメンバーの意思疎通ができ、調和の中でもそれぞれの強い個性が発揮されて「動き出しているな」と感じた瞬間は喜びを感じます。

田中: 科学の進歩や世の中の動きを考えると、私たちが仕事をするフィールドは変化をし続けるのが当たり前になっています。予想できないような環境変化やリスクを機会に変え、価値を生み続けるための最大の力が多様性です。変化に対応するだけでなく、変化に強い人・組織づくりが不可欠です。モノカルチャーの組織ですと、みんなが同じ方向を向いているため、大きな変化の波がきたときに一気に沈む恐れがあります。様々な方向を見ている人がいれば、1キロ先の変化がわかるかもしれない。あるいは別の対処法でクリアできる可能性があります。
また、何よりも大切なのは、多様性の前提として、私たち一人ひとりがそれぞれの強みや強固な意志を持った、強い個であることだと考えています。ダイバーシティ&インクルージョンの言葉の意味合いを尊重するのはもちろんのこと、私たちは危機感を持って、多様性を積極的に取り込むマインドセットと、それを生かす仕組みづくりを戦略として進めています。

多様性を束ねて力に

西本: 私にとって100人の多様な奏者を同時に束ねていくのは、いつでも難しい作業です。強みや強固な意志を持つ2400人もの多様なMRの方たちをまとめていく軸になるのは何ですか。

田中: まずは、共通の目的、価値観を持つことだと思います。私たちにとっては、それは患者貢献です。私たちが何のためにこの仕事をしていて、何のためにこの薬を世に伝えようとしているのか。患者さんにどう貢献できるのかを、企業理念としてだけではなく、個々人が何をできるか、考え行動するように求めています。
また、社員同士で自由闊達にディスカッションする雰囲気があって、はじめて組織としてまとまっていくのだと思っています。それともう1つ、会社のゴールと個人のゴールに対して、オーナーシップをもって取り組んでほしいというメッセージを常に発信しています。オーケストラでは、どのように奏者を束ねていらっしゃいますか。

西本: 私たちのプロダクションは各分野の職人の集まりですので、限られた時間の中で、彼らが一番能力を発揮できるリハーサルの進め方を心がけ、目標や理念的なことは作品を通して伝えていきます。国や民族により作品に対する歴史的価値観も異なりますので、同じ作品を演奏しても意味合いが大きく異なります。
オーケストラは個性豊かな人間集団ですから、風通しを常によくしておきたいです。火が弱まったら空気を送ったり、強すぎたら抑えたりと、そのときどきに応じて個人対個人で向き合うようにしています。するとそのうちに、個々の頭の中で考えていたことが、リハーサルの中で共有化されていき、いつしか彼ら自身の個性的な力がその中で生かされて、化学反応を起こすことがあります。指揮者の力の域を超えて起こる、そういった瞬間が最も理想的な喜びに感じます。

田中: なるほど、それはワクワクしますね。指揮者として、どのようなことを目指されていますか。

西本: 歴史に埋もれてしまった文化の復元・復活を目指し、チャレンジを続けたいと思っています。医薬品は科学の最先端のものだと思いますが、私は素晴らしい作曲家や画家の作品にも科学的なものを感じます。そもそもドレミの音階の元をつくったのは数学者のピタゴラスといわれています。当時、批判もあった中、従来の価値観を大きく変え、人間の進歩に多大なる影響を与える作品を創った彼らは、芸術家であるとともにイノベーションを起こした発明家だと思います。アステラスさんは、どのようなことを目指されていますか。

田中: 「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える」というビジョンの実現です。そのためにチャレンジを続けることは、私たちにとっても非常に重要だと考えています。西本さんがおっしゃっていた化学反応という言葉に強く共感します。多様で強い個が多くの化学反応を起こし、患者さんのために何ができるかを考え抜き、薬というイノベーションを医師や患者さんに届けることで社会に貢献し、揺るぎない信頼につなげていきます。

掲載日 : 2016年12月16日
掲載紙 : 日本経済新聞朝刊

指揮者
西本智実

イルミナートフィ ルハーモニーオーケストラ芸術監督兼 首席指揮者、ロイヤルチェンバーオー ケストラ音楽監督兼首席指揮者、大阪 音楽大学客員教授等を務める。

アステラス製薬執行役員 営業本部長
田中信朗

大阪大学経済学部 卒業、慶應義塾大学経営学修士。1985年に藤沢薬品に入社、アステラス製薬 千葉支店長、営業戦略部長などを経て、 2016年6月から現職。

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